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施策も検討の価値がある。仮想水貿易また、水利用の大半は食料生産に使用され、コムギやトウモロコシなどの生産にはその可食部NorthAmericaの重さの1,000~2,000倍程度の36.4水が必要であり、肉類では5,000~20,000倍もの水を使って育ったエサが必要となると推計されている。そのため、原油や天然ガスはあっても水が足りない中東のような国や地域では、水を輸入して食料生産するよりは、水が利用可能1~5 5~10な地域で生産して輸送するほうが運ぶ重さは1/1,000、1/10,000で済むのではるかに合理的である。この場合、水が豊富な他の地域で生産された食料を輸入すればその分の水供給は不要になり、食料の輸入はあたかも水を輸入しているようなものだ、という見方から、仮想水貿易(ヴァーチャルウォータートレード)とも呼ばれる。ちなみに、日本は水資源が足りないからというよりは、飼料の生産農地や放牧地が少ないことから、大量の飼料用穀物や肉類を輸入している。また、東京臨海部のように一人当たり水資源量が少ない地域では食料生産用の水資源は絶対的に不足するため、域外の水を使って生産された食料を移入して需要を満たしている。そういう意味では、人口密度の高い都市部では、水と食料に関しては地産地消、循環利用、ゼロエミッションは無理であり、都市部の持続可能性の構築にあたっては、水や食料を供給する周辺部と一体的に考える必要がある。長期的な視点で水資源を利用さて、安定した水供給のための社会基盤施設がそれなりに整備され、長期的には人口が減り水需要の逓減が見込まれる日本では、将来の水需給の心配は不要なのだろうか。まず、日本では気候変動によって豪雨が増えるのに対し降水回数が平均的には減少し、年降水量は同じか微増でも、利用可能な水資源量が実質的には減少する可能性が高い。さらには、社会基盤施設が徐々に老朽化していくのに対し、人口減少で財政的余裕がなくなるため、減りゆく人口に併せて戦略的2000年における各地域間の“Virtually Required Water”貿易(主要穀物のみ)CentralAmericaSouthAmericaWesternEurope38.8North West 57.5AfricaCaribbeanWestAfrica33.5MiddleEastSouthAsiaUSSREast &South East AsiaOceaniakm 3 /年10~15 15~20 20~30 30~50 50<(河村、2003、Okietal.,2003)(2000年に対する国連農業食糧機関等の統計に基づく)図5 2000年における各地域間の仮想水貿易。国連農業食糧機関のデータ等に基づいて推計(河村、2 0 0 3より)78.5な集約を進めて的確な維持補修更新をしていく必要が生じる。そういう意味では、コンパクトシティの利点を国土全体に活かす「国土のコンパクト化」が今後必要になるのではないだろうか。すなわち、水に限らず、エネルギーや通信、交通や物資輸送、医療や教育、行政や金融など、健康で文化的、安心で快適な生活の維持には必須である広義の社会基盤サービスを現状の人口減少下でそのまま維持し続けるのは難しいため、長期的な国土利用計画を定め、2100年にもそうした広義の社会基盤サービスを維持する地域としない地域を明らかにするのである。これにより、国土全体として維持管理が経済的に可能で、エネルギー使用量が少なく、自然環境への負荷が低く、自然災害へのリスクが低く安全で、かつ幸福感の感じられる住まい方に誘導可能となるだろう。水の恵みを最大限に生かし、水の災いを最小限に抑えるための努力を、我々は今後とも長期的な視点に立って続けていく必要があるのである。参考文献1)沖大幹、2012:水危機ほんとうの話、新潮社、pp.334。2)沖大幹、2014:東大教授、新潮新書、pp.206。3)「水の知」(サントリー)総括寄付講座編、沖大幹(監修)、村上道夫、田中幸夫、中村晋一郎、前川美湖(著)、2012:水の日本地図─水が映す人と自然─、朝日新聞出版、pp.112。4)Maggie Black, Jannet King(著),沖大幹(監訳),沖明(訳)、2010:水の世界地図第2版―刻々と変化する水と世界の問題、丸善、pp.128。46.2輸入国ベース, 5 km 3 /年超のみCivil Engineering Consultant VOL.267 April 2015013