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水ストレスの削減水ストレスと呼ばれる水利用可能性を表す指標がある。水資源賦存量の40%以上の水資源を利用する場合と、年間一人当たり1,700m 3以下の水資源賦存量である場合には水ストレスが高くなるとされている。このストレスを低下させるには、貯水施設や送水施設の整備や個人的な水資源節約も必要であるが、節水機器の進歩、個別循環の拡大も大きな効果を与えている。水質を変換すれば水資源増加に繋がる(図2)。最たる例は海水淡水化技術で、我が国が得意とする膜濾過技術である。その際に必要なエネルギーは、浸透圧に比例するので海水を使うよりは河口付近の汽水を用いる方が省エネルギーとなる。海水淡水化の必要エネルギーは60MJ/m 3程度であり、通常の浄水処理では11 MJ/m 3程度である。海水淡水化技術の進化により消費エネルギーは低下しているが、地球温暖化抑制上はやむを得ないときにのみ使う技術である。水質変換技術は我が国の出番であるが、性能8割、価格半分、あるいは、性能半分、価格2割というような技術(環境中間技術または適正技術)の市場の方が大きいことも確かで、現地生産化水ビジネスの将来は明るい。水紛争国際的な水を巡る紛争は不公平感によるものが多い。国際河川の上下流問題や左右岸問題があり、国境線直上流地点におけるダム建設(例えばメコン川における中国側のダム)や下流側国による上流地域の占領などの例がある。この種のダム建設は戦力、経済力等、圧倒的な差があるときになし得るので、表面的には激しい紛争に至ることは少なく、経済援助を含む複数の手段による不公平感の解消、あるいは泣き寝入りで治まる。内国的には、開発途上国で見られるように富者は水道を使い、貧者は水売りからより高価な水を購入していることは珍しくない。この種の問題にはJICA(国際協力機構)のODA(政府開発援助)やJBIC(国際協力銀行)の借款による支援が問題解決に有効である。流域水マネジメント水問題の解決には流域単位でのマネジメントが必要とされる。流域内で各水利用セクターが持つ不満感の総和を最小にすることが、水資源行政の基本である。流域が経済的に閉じているときには、この手法で目的を達成できる。しかし、水が不足する流域で輸出(移出)工業生産を増やして農地をかなり削減し、農業から水質浄水処未汚染水図2水利用と要求水質浄水飲用調理水利用・時間経過水利用入浴洗濯清掃トイレ水再生と再利用高度再生水再生水処理水労働力を振り替えて、地域の所得を増やしつつ水利用量の削減を図り、その代わりに不足食料を輸入(移入)することを考えると、水資源利用可能量と生活水準を向上させることが可能になる。所得上昇、食糧安全保障、水の有効利用は互いに深く関係している。また、農業用水の技術的水質改善は費用が掛かりすぎるので、流域単位でのマネジメントにより解決するしかない。水問題の解決には水資源の所有形態も大きく左右する。地下水、降水いずれも公水である時には全体としての利益を最大にすることが計画的に可能になる。公水でありながら売買可能なときにはfull-cost pricing(費用積上げ方式)が可能となり、自由主義経済下での最適解に至る。我が国では農業における慣行水利権は権利としての扱いを受けつつ、都市用水、工業用水、農業用水の一部は水使用の認可を受けて使っている不整合的な非近代的状況にある。中国黄河流域の事情黄河はチベット高原から5,500km流れて渤海湾に注ぐ河川で、75万3千km 2の流域面積を有する。中下流域は古の文化的先進地である。黄河の水源はチベットにあり、中流は流出土砂の源である黄土高原、下流から河口にかけて天井川になっている(図3)。水利権は国有であり、国が水利用形態を決定できる権限を有している。黄河断流はかつて良く知られ、1997年には断水流長800km、断流日数265日となったが、政府(黄河水利委員会)の取水量一律削減の1998年指示により2000年以降発生していない(図4)。また黄河の水質は工業の進展と共に悪化を続けているが、近年規制が強化されて来ている。黄河中下流域では懸濁物質が多いために重金属や難生物分解性化学物質が吸着され、水質は100km程度の流下できれいになり、その代わりに底質が汚染されることが観察されている。黄河流域の水資源賦存量は2,200m 3 /年/人と少なく、地下水利用は避けられない。そのため2000年までは地下水位は低下を続汚水Civil Engineering Consultant VOL.267 April 2015015