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Consultant268号

論説・提言第3回このコーナーでは「日本が目指すべき姿と社会のあり方、そこで必要とされるインフラの実現に向けた方策、そしてその際に果たすべき建設コンサルタントの役割とは」をテーマに、各専門分野の視点からの提言を掲載しています。一般常識「軟弱地盤ほど地震被害は大きくなる」は本当か昔から軟弱地盤は地震に弱く、地盤の良い所と悪い所で被害に大きな違いが現れると言われてきた。特にその大きな根拠になっているように思われる1923年の関東地震では、軟弱地盤地域の墨田区から東側のいわゆる下町で、山の手台地に比べて木造家屋の被害が大きく、それが大火災に繋がった。この地震以来、我が国では軟弱地盤は地震に弱く被害が集中するとの考えが、一般の人たちだけでなく専門家にも広く受け入れられてきた。1995年の兵庫県南部地震では老朽木造家屋の倒壊などで6,000人以上の方の生命が失われたが、その被害は「震災の帯」とよばれた細長い範囲に集中していたことは記憶に新しい。多数の近代的ビルの破損、地下鉄駅の破損や阪神高速の高架道路の倒壊などもこの中に含まれている。ところがこの震災の帯は地震に弱いとされてきたような軟弱地盤ではなく、六甲山麓から旧海岸線までなだらかな勾配でつづく扇状地性の比較的良好な地盤であった。六甲山に近づくと被害はなくなる一方で、旧海岸線から軟弱粘土上に埋立造成した人工地盤に入るとやはり上部構造物の揺れによる被害はほとんど目立たなくなり、液状化による被害が主になる。この一帯には老朽木造建物はなかったが、鉄骨や鉄筋コンクリートによる近代的ビルについても地震の揺れそのものによる破損は皆無であり、震災の帯と好対照を示した。高架道路については震災の帯でピルツ橋脚(橋桁と橋脚が一体構造で形状がドイツ語のキノコ(ピルツ)に似る)区間の連続的な倒壊が注目を集め上部構造の問題点がクローズアップされたが、実際には写真1に例示するように、それ以外の構造形式のRC橋脚もかなりの被害を蒙った。その一方で、旧海底軟弱地盤を埋め立てた地域では地盤の液状化や流動による橋脚基礎の破損や橋桁の落下が発生したものの、写真2の例のように、地上の橋脚には損傷がほとんど見られなかった。震災の帯に激しい震動被害が集中した第一の原因としては、地震断層のほぼ直上に位置していた可能性が考えられる。しかしそこから1km程度しか離れていない埋立地盤の上部構造物に揺れの直接的被害が見られなかった原因は、そこで起きた激しい液状化と密接に関係し國生剛治(KOKUSHO Takaji)語り手中央大学名誉教授・工学博士技術士(建設部門)一般社団法人建設コンサルタンツ協会元理事1944年、千葉県生まれ。1967年、東京大学工学部土木工学科卒業。1969年、同大学大学院工学系研究科修士課程修了。1975年、米国Duke大学工学系研究科修士課程修了。1969 ?1996年、財団法人電力中央研究所勤務。1987?1990年、東京大学工学部非常勤講師。1994?1995年、茨城大学工学部非常勤講師。1996年より中央大学理工学部教授。土木学会や地盤工学会より論文賞、技術賞等を受賞。最近は「エネルギーによる地盤液状化、斜面の地震時流動距離評価法、地震波動の増幅とエネルギー」の研究を続ける。著書に『液状化現象』・『地震地盤動力学の基礎』鹿島出版会。ている。実際、新潟地震・日本海中部地震や東日本大震災などにおいても、液状化したエリアでは揺れによる建物の被害はほとんど見られなかったことが指摘できる。液状化のような地盤の破壊現象によって地震の揺れが地表では小さくなる可能性については、土の動力学を扱う研究者の間では1970年代ころより模型実験やコンピュータによる計算によって指摘されてきたが、多くの地震学や地震工学の専門家は実際にそのようなことが起きるとは考えていなかったようである。しかし神戸の地震がこの状況を変えた。神戸ポートアイランドの鉛直アレー観測記録注1)によれば、地中84mの深さで0.5g以上の加速度が地表で0.3g以下に低減した。表面十数mを覆う埋立まさ土の激しい液状化やその直下の軟弱粘土の非線形化により、地表の揺れが大幅に下がったのである。それではこのような現象が実際に起こり得ることが認識された現時点で、「軟弱地盤の方が地震被害は大きくなる」と言われてきた常識の意味を改めて考えてみよう。地震に対する構造物設計は歴史的に静的震度法に始まり、加速度による力の釣合いの考え方がとられてきた。実際、我々が地震被害を語る場合、まず加速度の大きさで考える習慣がついている。しかし地震による構造物の被害は、必ずしも加速度だけでは決まらないことが近年の地震記録や地震被害から明らかになってきている。地震計の設002Civil Engineering Consultant VOL.268 July 2015