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置密度が近年飛躍的に上がったこともあって、記録される地震最大加速度は年と共に右上がりの傾向で、1gを遥かに超えた記録が多数得られている。それにも拘らず、その周辺での実際の地震被害は意外なほど少ないケースが見られる。例えば1994年ノースリッジ地震(アメリカ、ロサンゼルス市)で1.8gを記録したターザーナ(Tarzana)、2004年中越地震で1.7gを記録した十日町、2011年東北地方太平洋沖地震で2.7gを記録した築館などである。この議論において、地震被害は構造物に生じるひずみの大きさで決定されることは誰しもが認める出発点となる。構造物に発生するせん断ひずみgは、上部構造物を極端に単純化して水平地盤のような横長のせん断振動系を考え、地震主要動の主体であるSH波(水平方向に振動するせん断波)の鉛直伝播により震動することを想定した場合、構造物を進行する波の速度?uと等価なS波伝播速度Vsによりg = ?u/Vsで表される。つまり加速度よりは速度?uがひずみgの大きさ、つまり破壊に直結していることになる。また地震波動の速度?uの2乗と波動インピーダンス注2)の掛け算で計算されるエネルギー流速や、それを地震継続時間について積分した累積エネルギーも地震被害に直結しているといえる。つまり加速度よりは、構造物ひずみとの結びつきが強い速度や波動エネルギーによって地震被害が支配されると言える。このうち、エネルギーで考える場合、マッシブで減衰が大きい擁壁・ケーソン岸壁や盛土・斜面などにおいては、例えば液状化現象のように多数回の累積ひずみが破壊につながるため、繰り返し載荷による累積エネルギーで破壊を評価することができる。ところで、実際に地盤中を伝わる波動エネルギーを多数の強地震について鉛直アレー観測記録を使って計算すると、液状化発生の有無に関わらず表層・基盤間のインピーダンス比が小さくなるほど地表への波動エネルギーが小さくなる明瞭な傾向が見られる1)。つまり基盤に同じ地震エネルギーを与えた場合、地表のVsの小さな軟弱地盤の方が硬質地盤よりエネルギーが小さくなることを意味している。これは、軟弱地盤ほど地震被害が大きくなるとのこれまで広く受け入れられてきた一般常識とは整合していないように見える。例えばA, Bの2地点で、Bの方がAに比べ表層のVsが1/2の軟弱地盤を考えた場合、表層地盤中の波動エネルギーは多くの地中観測記録の分析結果に基づけば、BではAに比べ0.6倍程度と小さくなる2)。それにも写真1 神戸三宮付近の非埋立地盤では高架道路橋脚の破線で囲んだ部分に揺れの被害が見られた写真2 地盤の不同沈下が生じた埋立地盤では類似の高架道路橋脚に揺れの被害が全く見られなかった関わらず実効的な地盤ひずみは軟弱地盤Bの方が2倍以上発生することになる2)。つまりエネルギーは小さくても地盤ひずみが大きくなって地盤被害は生じやすくなり、被害実態と矛盾しないことになる。元来、地震被害には上部構造物本体の地震慣性力によるものと基礎地盤に起因するものがあるが、そのような区別をされないで議論されることが多い。一括りに地震被害とされたものの中にライフラインや建物基礎の被害など地盤に起因したものが多く含まれていることが考えられる。それ以外にも不同沈下や側方流動など地盤変形が上部構造の被害を引き起こした場合も考えられる。地震被害の解釈に当たっては、地盤による被害か上部構造自体の地震慣性力による被害かを峻別することが重要である。一方、関東地震の下町の家屋被害については、地表への波動エネルギーは小さくても地盤の非線形化により卓越振動数が低くなり、建物の共振現象により特に老朽木造家屋が被災し易かった可能性が考えられる。強い地震動を受けた場合に、軟弱地盤になるほど上部構造物自体の震動被害が大きくなる一般的傾向が存在するかについて、最近の地震被害のケーススタディーではむしろ逆の傾向を指摘する研究も散見される。以上、古くからの一般常識「軟弱地盤ほど地震被害は大きくなる」について、地盤の被害あるいはそれに起因した上部構造物被害に関しては地震波動エネルギーの検討からもその根拠が裏付けられる。一方、軟弱地盤で共振しやすい老朽木造家屋の問題は防災上依然として重大であるものの、近年増加している耐震設計された構造物が設計条件を超える地震にあった場合、良好な地盤ほど揺れによる直接的被害が少ないとは限らないと言えそうである。注1)鉛直アレー観測記録:同一地点で地表とボーリング孔中に設置した複数の地震計での同時地震観測記録注2)波動インピーダンス:地震波が伝播する地盤の密度とS波速度Vsの乗算値<参考文献>1)國生剛治、鈴木拓(2011):強地震鉛直アレー記録に基づいた地盤中の波動エネルギーフロー、日本地震工学会論文集第11巻第1号、14-312)國生剛治、鈴木拓(2012):強地震鉛直アレー記録に基づいた地盤中の波動エネルギーフロー(補遺)、日本地震工学会論文集第12巻第7号、62-68Civil Engineering Consultant VOL.268 July 2015003