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写真3 縄で結った橋■まっすぐな道と難所を越える技術クスコ近郊の標高3600mに残っているカパック・ニャンの一つは、延長約800m、幅4~5mで現在は路面が草に覆われている。その道は極めてまっすぐにクスコ市街にむかって伸びていることがわかる。このまっすぐな線形はカパック・ニャンの特徴の一つとされている。もちろん距離を考えれば道路は極力直線が望ましいが、地形上工事が困難であったり、急勾配で動きにくくなることもある。古代の道路であるローマ街道や日本の律令時代の道路も同様に直線が多いと言われているが、これらに比べカパック・ニャンは特に直線性を保ちやすい環境にあった。それはインカには車輪も馬もなかったことによる。通行は人やリャマなどの駄獣に限られていたため、道路は勾配を気にせず直線で引くことができ、勾配は階段部分を含め40~80度まで可能であったと言われている。また道路の築造には、アンデスの急峻な地形を克服するために様々な技術が用いられた。凸凹の多い斜面では山肌を切り盛りして平坦にし、湿地帯を抜けるために周りを石で囲った上で路盤を嵩上げする手法などが用いられた。橋も多く、狭い川を越える1枚岩の橋や大規模な谷間を抜ける縄で結った橋が造られた。さらに多くの区間において、ぬかるみを防ぐ石畳舗装や道路が崩壊しないよう排水溝が備えられているとともに、道路の両側に擁壁が設けられている点も特徴である。擁壁は輸送に用いるリャマの群れがはぐれたり転落しないように整備されたものである。1~2頭であれば問題はないが、数千頭ものリャマを同時に通行させようとした場合、輸送の安全性と確実性を保つためには必要だったのだろう。■マチュピチュのカパック・ニャン(ハトゥン・ニャン)インカの道路築造の技術がわかるのがマチュピチュ周辺である。マチュピチュはウルバンバ川に三方を囲まれた急峻な丘の上の街であり、宗教都市であったと言われる。クスコからアマゾン地方に抜ける場所に位置しており、ウルバンバ川はアマゾン川に合流し最終的に大西洋に注ぎ込む河川であるため、クスコからみると下流側にあたる。マチュピチュには複数のカパック・ニャンが通り、現在一部がマチュピチュに至るトレッキングコースとして旅行者に利用されている。これらは広義のカパック・ニャンであり、ランクとしては狭義のカパック・ニャンの下のハトゥン・ニャンにあたる。そのうちインカ橋と通称される箇所に至る一本は、まさに山の中腹の断崖絶壁に整備された道であり、一見するだけで当時の工事の厳しさを想像することができる。この道では、基礎部分は自然の山肌を利用しており、自然石の上に加工した石材を積み上げて絶壁での道路空間を確保している。この自然石と加工した石材を組み合わせる技法は、マチュピチュの遺跡の中やアンデネス(段々畑)でも使われており、インカの石加工の図3切通し区間の道路構造図4嵩上げ区間の道路構造030Civil Engineering Consultant VOL.270 January 2016