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写真7 地階から眺めた大手町の森。森の一角を切り開いて構造物を建てたような錯覚を覚える。周辺の建物の存在も和らげている写真8 人工地盤の上とは思えない雰囲気を造り出している大手町の森の樹種と木々の組み合わせ。これらを支える植栽基盤の能力の高さが窺えるの植物の成育にも貢献している。また、イロハカエデやカシ類の実生の発生にも寄与しており、多くの稚苗が生育し順調に後継樹が生育している。土の厚さが平均100cmもあることは、駆体がこの重みに耐えるための構造でなければならず建築上は負担も大きいが、このおかげで大手町の森は健全に生育を続けている。土地を集積利用しなければならない街では、これからも人工地盤の上で緑地を造ることが多くなると考えられる。植栽基盤の作り方が植物の生育を支配することは明らかであるが、重い土を利用することは難しい。少し古い事例では、渋谷駅近くの山手線の内側に面している「宮下公園」がある。下が駐車場になっている構造物の上に土盛りをしてケヤキを植栽した。ここでもケヤキは比較的健全に成育しており、自然の土を用いて植栽基盤を整備した効果がみられる。構造物への負担を軽減するために軽量土壌をよく使用しているが、土が軽ければ植物を支える力は弱く、支持資材に頼らざるを得なくなる。また水分の保持という視点からも自然土壌にはおよばない。人工地盤の典型的な緑化は、屋上緑化であろう。遮るもののない日射と風という屋上環境を理解し、適切な樹種の選択と屋上環境を和らげるために植栽基盤の造り方の工夫が重要になる。明治神宮の森東京の街は巨大都市として構造物に覆われているが、その中に緑の孤島のような森が存在している。約3,000種の生き物が生活している明治神宮の森はその代表である。この森は大正4年に着工し、5年後に完成した。森造りは全国からの約10万本の献木によって進められた。現在、常緑樹を主体とした原生林に近い様相を見せているが、約100年前に人が造った森である。造営前は、アカマツを主体とした林と御苑と呼ばれる南池周辺の落葉樹の林があり、北側の宝物殿前は耕作地が僅かにあったが、ススキやヨシに覆われた荒地であった。明治神宮の森づくりの巧みさは、献木を植栽する際に既存の林が存在しているところへ植えていることであり、敢えて樹の存在しない場所には植栽してないことである。植栽の基本である「適地適木」を忠実に実施している。森が約100年で原生林に近い状態になった背景には、在来の地形を大きく改変していないことがある。土地の造成は、参道と構造物を造る場所だけであった。そのため既存の森が存続することで表土も残った。森造りの基盤は出来上がっていた。樹の生育に表土がいかに重要なものかが推察できる。自然の土の存在東京都内には、9つの大きな都立庭園がある。これら庭園の来歴は様々であるが、全ての庭園が文化財庭園として位置づけられ、樹木もほぼ健全な成育をしている。これらの庭園も明治神宮の森と同様に、地表は舗装されることなく構造物も最小限であり、樹に覆われている。降雨は地下へ浸透していくことが可能であり、植物の成育を支える基盤が担保されている。街なかで樹が生育して行くには、失われつつある自然の土の存在が重要である。Civil Engineering Consultant VOL.273 October 2016009