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特集まちと樹の共生?木との付き合い方を探る?3樹木が成長する時間、都市が成熟する時間平賀達也HIRAGA Tatsuya株式会社ランドスケープ・プラス代表取締役東京工業大学・東京農業大学非常勤講師都市はともすれば緑と対立する存在として扱われるが、広くみれば都市もまた自然の中にあり、かつての日本では緑や水と調和した都市が脈々と育てられてきた。自然の中で調和するこれからの都市のあり方とはどのようなものであり、どのように創っていくことができるのだろうか。都市文明の追求から都市文化の探求へ現在、地球人口の半数以上が都市に集中し、今後は世界中で1,000万人を超える都市が増え続けるといわれています。地球規模で環境問題が顕在化するいま、都市の生成プロセスそのものが地球温暖化の対策や生物多様性の回復に貢献できるような、新しい都市デザイン手法の確立が切実に求められているように思います。そのような中、日本は世界に先駆けて人口減少社会を迎え、拡大を是とする成長社会から縮退を受け入れる成熟社会へと移行しつつあり、世界に伍する「都市文明」を追求してきた時代から、日本ならではの「都市文化」を探求する時代が到来したといえるのではないでしょうか。緑や水を都市のインフラとして最大限に活用した江戸のまちづくりが、持続可能な庭園都市として当時の西洋諸国から高く評価されていた背景には、西洋が都市化によって失った人間と自然が関わりあう風景がかつての日本には残されていたからだ、といわれています。都市の街路樹と里山の雑木林の緑が違って見えるのは、風景の中にその場所の郷土性や持続性を感じられるかどうかの違いであり、都市の緑を人間と自然が関わりあう風景に再生していくような姿勢にこそ、この国が世界に向けて都市の未来像を語れる糸口があるように思うのです。都市文明の成長によって引き起こされた環境問題の課題先端都市である東京。その東京が都市文化の成熟によって育まれた持続可能な自然観と、最先端の環境技術が融合する都市デザインを世界に向けて発信できれば、地球の未来に対する大きな希望となるのではないでしょうか。自然の形態原理と東京の都市構造アジア・モンスーン地域の東端に位置する日本は、昔から大陸文化を取り入れながらも、降雨に恵まれた気象条件のもとで独自の文化を育んできました。山地が国土の大部分を占める日本では、大陸に比べて河川の流域が小さく急峻なため、生き物の生息基盤となる表土が降雨によって海へと流出しやすい環境にあります。しかし、我々の先人たちは気の遠くなるような時間と労力をかけて小規模な流域をつなげ、国土全域に神経細胞にも似た繊細で複雑な水のネットワークを構築してきました。人間が継続的に自然への働きかけを行うことで成り立つ里山や水田のシステムは、森と海をつなぎ、生態系の維持を促し、地下水を涵養しながら、それぞれの流域圏における生産力を高めるだけでなく、人口が集中する下流域を水害から守る役割を果たしてきた歴史があります。東京の都市構造の原形をなす江戸のまちは、日本の歴史上初めて下流域につくられた首都であり、江戸初期に行われた利根川の流路変更や玉川上水の整備などによって、複数の流域をつなげながら美しいまち並みと安定した社会を築いてきました。しかし、利便性と効率性を追求してきた20世紀の物質社会は、エネルギーや食糧の多くを他の国々に依存し、人間が何によって生かされているのかを見失ってしまった時代であるといえます。近代合理主義のもと、数万年の時間をかけて培っ014Civil Engineering Consultant VOL.273 October 2016