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Consultant273

てきた地脈や水脈のつながりが無作為な都市開発によって分断されたことで、東京のまちは自然の力による自己治癒機能を失ってしまいました。都市に集まって生きることの意味を、物質社会の価値基準に委ねるのではなく、いきいきとした生命のつながりの中に見出すとき、私たちは人間が生かされている領域への探究心を取り戻すことができるのかも知れません。分断された領域を緑や水のネットワークによってつなげていくプロセスにこそ、都市の中に人間と自然のつながりを取り戻す手立てがあるのではないでしょうか。私たちが考える新しい都市デザインの手法とは、低影響開発(※)によって都市の中に自然の形態原理を見出し、自然の循環機能を再生することにあります。大規模な開発においては、周辺にある緑地や水面を都市の肺臓として位置づけ、道路や河川が都市の血流として機能するよう、グリーンインフラと呼ばれる保水力のある植栽基盤によって降雨を都市の隅々まで細分化する機能を付加し、郷土性や多様性のある植栽選定によってその領域が本来持っている自然の力を再生します。局所的な開発においては、その場所が潜在的に持っている成長要因としての地脈や水脈と、その場所に環境負荷を与えている抑制要因をより細やかなスケールによって検証し、樹木の持つ光合成のエネルギーを最大化することで、水や風といった自然エネルギーがより解き放たれやすい状況を建物の配置や地形の操作でつくりだしていきます。自然への働きかけによってそれぞれの領域における環境性能の成長を促すことは、都市のような大きなスケールや住宅のような小さなスケールにおいても十分に可能です。大切なのは、それぞれの領域が成長しながらつながることであり、そうすればそこに新しい価値が生まれます。快適な環境の連鎖は、都市の中の新たな財産となって人々の意識をさらに大きな領域へと広げてくれることでしょう。図1神経細胞の樹状突起。右上が樹木の枝葉で、右下が地形の侵食作用※低影響開発(LID:Low Impact Development)とは自然の形態原理である「樹状パターン」に基づいた環境の循環システムを構築する開発手法のことである。「樹状パターン」とは神経細胞が情報を効率よく伝えるためのものであり、樹木が太陽の光を効率よく受け止めるパターンや、降雨が地形を侵食しつくられる安定した水脈のパターンである。これらのパターンがある領域全体を一様に覆っている状態において、安定した生命の循環機能が維持されると考えられている。この考え方に基づいた循環システムを緑の配置や風の流れと一体的に計画することで、年間を通じて自然の力を利用した快適な環境の構築が可能となる。低影響開発によるキャンパスの再生手法東京工業大学の大岡山キャンパス再生プロジェクトは、先導的な都市デザインの成果を科学的なアプローチによって実証するために取り組んだものです。私たちが目指したのは、光や風といった自然エネルギーと都市や建築をどのようにコンパクトでスマートに融合できるか、という今日的命題をキャンパスの環境整備を通じて実践することにありました。ここでは緑や水の持つ循環機能を促進する低影響開発の手法によって、環境ポテンシャルの高い下流域の地勢構造と、最先端の環境技多摩川大岡山キャンパス図2東京工業大学大岡山キャンパスの地形構造Civil Engineering Consultant VOL.273 October 2016015