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写真1小高い野草の丘から見る本館前広場の桜並木写真2大岡山の尾根地形に位置する本館前広場の桜並木術を装備した上流域の建築クラスターを有機的につなげることで、知の創造の場にふさわしいハイブリッドな環境整備を行っています。計画の軸となる本館前広場と図書館は緩やかな南斜面の尾根地に位置しており、夏の卓越風や降雨の動きを操作しやすい状況下にあります。本館前広場の桜並木を大きな一枚の「床」で保全し、地下化された図書館上部を南斜面の「丘」で再生することでキャンパス内の水循環を促し、心地よい風を後背地へとつなげながらキャンパス全体の環境性能を最大化することを目指しました。短期的な効率性を重視したコンクリート依存型の造成計画に対し、流域を見極めながら環境のつながりを強固にするランドスケープデザインは、長期的な安全性を担保するだけでなく、樹木の持つ光合成エネルギーによって微気候を生み出しキャンパス全体を有機的に再生する生成プロセスを可能にしています。また、キャンパス内の植生を確定するプロセスにおいて、大学の歴史や伝統の観点からは景観的価値の高い植生、環境保全並びに生物多様性回復の観点からは環境的価値の高い植生の分類を行いました。本館前広場についてはキャンパスの歴史を象徴するソメイヨシノの保全管理を継続するため、図書館周辺にもサクラを中心とした高木植栽を配置しています。さらに、灌木や草本類については、キャンパス内で最も豊かな自然が残るひょうたん池周辺の林床から日本在来の野草の種を採取し「東工大オリジナル野草マット」を育成するなど、キャンパス全体で地域固有の生態系保全に挑戦しています。緑によって水をいなす日本古来のランドスケープ的手法と、最先端の科学技術をまとった建築様式の融合によって、東京工業大学が掲げる「知の創造」の場にふさわしい多様性のある風景が創出されました。人間と自然のつながりを取り戻すイノベーティブなキャンパス再生の取り組みによって、世界中から優秀な人材が集まり、次世代型の都市デザインを牽引する場所に育ってくれることが、このプロジェクトに込めた私たちの願いでもありました。「生命文化都市」としての東京の都市再生大岡山キャンパスにおける桜並木のように、地域の人々が大切に守り続けてきた鎮守の森のような場所からは、人間と自然のつながりをいまも感じ取ることができます。この100年の間にコンクリートやアスファルトで覆いつくされた東京の地表面も、ひと皮めくれば数万年の時間をかけて堆積した肥沃な土壌がいまも静かに横たわっています。私たちが掲げる「生命文化都市」とは、新しい都市デザインの手法によって、次の100年をかけてこの国が本来持っている自然の多様性を取り戻していくプロセスのことです。原子力や化石燃料由来のエネルギーに依存したグローバルな文明社会を優先する都市づくりは、短期に情報伝達できる既知の技術によって成り立っており、要素が少なく画一化されたものほど、事故や故障が少なく社会のシステムは安定するだろうと考えられてきました。一方で、自然エネルギーや生物多様性の回復を目指すローカルな文化社会に根ざした都市づくりは、その多くが伝達不可能な未知の領域であり、要素が複雑で多様化016Civil Engineering Consultant VOL.273 October 2016