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軌道にかかる、全長88.4mの格子トラス鉄橋である。キュランダ鉄道の技術者ジョン・グゥイニスが設計し、ウォーカーズ・リミテッド・クイーンズランド社によって建設された。ちなみに、JR山陰本線の余部鉄橋が同じ形式で日本最長の橋として有名であったが、2010年で供用を終了して一部が解体された。工事には用材の調達が必要だったため、橋の建設にジャングルで伐採した木材を大量に使用したが、残念ながら杭、主軸台、受け材、特に桁には不向きな材質であった。橋は当初、軸重8tの車両用に建設された。1900年頃にはキュランダの先へと延びていた路線は、1926年、より重量のある車両が導入されたことにより、軸重10tに耐えうる橋に補強された。さらに1998年、奥のアサートン高原からのさとうきび輸送に対応できるように、全ての橋が軸重16tへと強化された。■開通によってキュランダ鉄道はオーストラリアにとって、社会的に非常に重要な役割を果たしたと言える。鉱山採掘業は金や錫の枯渇により瞬く間に衰退したが、鉱山の稼働が縮小する反面、伐採業、製粉業、戸棚類や建築用木材の輸送業などの産業が発達していった。別の地域では材木用に伐採されて広がった草原で酪農や農業が、乾燥地帯では水耕栽培によるタバコ、米、砂糖、コーヒーが鉱山採掘業に取って代わった。そして鉄道は、後の時代に牧草地が広がっていく西のエリアへと延びていき、クイーンズランド州北部の大規模な鉱山や農業地帯の開発の役割を果たした。移民労働者は人口増加を助長し、鉄道によって発展した産業はさらなる人口増加につながった。第二次世界大戦時には、鉄道は一時オーストラリア軍及び米軍の約25万人の輸送に貢献し、国防の極めて重要なインフラの役割を果たした。現在では、ケアンズやアサートン高原が重要な観光資源となり、キュランダ鉄道は地域の観光名所の要となっている。■ナショナル・エンジニアリング・ランドマーク認定困難を極めた土木工事も、着工から5年後の1891年6月にケアンズ~キュランダ間が開業した。キュランダの金と錫の鉱山労働者のための物資輸送を目的として計写真6 15号トンネル坑口にて画された鉄道だったが、完成するころには金も錫も産出されなくなっていたため、当初の目的は達せられぬままとなった。しかし、この鉄道により物資の安定供給が可能となり、アサートン高原が繁栄するとともにケアンズの町にも発展の基礎が出来上がっていった。多くの労働者が、非常に苛酷な労働条件の下で生活と労働を共にして鉄道を開通させた。高原地帯の発展に寄与したキュランダ鉄道は、19世紀土木工学の最も優れた偉業の一つでもある。その功績が認められてキュランダ鉄道は2005年にオーストラリアのナショナル・エンジニアリング・ランドマークに認定された。現在、キュランダ駅ホームの一角に認定の記念碑が建立されており、取り付けられたプレートには難工事の末に鉄道を完成させた設計技術者などの名前が刻まれている。<参考資料>1)『Nomination of the CAIRNS KURANDA SCENIC RAILWAY for recognitionas a NATIONAL ENGINEERING LANDMARKUNDER THE AUSTRALIANHISTORIC ENGINEERING PLAQUING PROGRAM』Cairns Local Group ofEngineers Australia Queensland Rail Engineering Heritage Australia(Queensland)20052)『CAIRNS RANGE RAILWAY 1886-1891』AN HISTORICAL SOCIETY OFCAIRNS PUBLICATION 19913)「キュランダ鉄道公式ホームページ」(http://www.ksr.com.au/KSRJapan/Pages/Default.aspx)4)『オセアニア鉄道旅行』櫻井寛2010年イカロス出版5)『オセアニアの鉄道』秋山芳弘2007年旺文社6)『海外紀行?オーストラリアのキュランダ観光鉄道を行く後編』37巻7号秋山芳弘1996年オフィス・スペース<取材協力・資料提供>1)Graeme Haussmann(Railway Engineer)2)Akemi Fukatsu(通訳)<図・写真提供>図1『キュランダ鉄道の情報ガイド』図2、3参考資料1)P16上、写真5塚本敏行写真1有賀圭司写真2、3大角直写真4、6参考資料2)写真7茂木道夫写真7キュランダ駅にある記念碑Civil Engineering Consultant VOL.274 January 2017019