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デザインするということ長谷川:土木構造物には「面的にデザインを考える」という発想はあまりありません。道路や橋梁を造る場合、機能や安全性を重視して造る場所の条件にマッチした構造が、基本的には最適なデザイン、構造美を兼ねていると考えられています。土木ではまず公共の安全や安心を守ることが最優先され、機能的な構造美がデザインとなり、かつ地域に根付いて役割を果たしてきた構造物が後世に残ります。土木の景観は構造物と自然との融合で、構造美からデザインに特化していく構造物は「設計や施工が難しくコストがかかる」というのが今までの実感です。六鹿:「土木のデザイン」と言っているときは、土木の構築物そのものの色々な観点からのデザインだと思います。都市は建築と土木の両方からできていて、建築と土木を合わせて総合的に景観をデザインせずに、片方だけを、特に影響力が大きい土木だけをデザインしました、という話はあり得ないのです。土木でデザインを議論するのであれば、景観のデザインという観点から総合的に議論すべきだと思います。長谷川:そういう意味で、まちづくりが先行してインフラ整備をする場合と、先にインフラ整備を進めてまちづくりをする場合でも、計画時にできあがった全体としての景観を考えるべきです。歴史や景観に配慮したヨーロッパの建物は素晴らしいと思います。イギリスなどでは高さが揃って連続し、曲線に沿って街路と建物が融合しています。インフラやまちづくりが市民の意志を主張し、生活と密着して、まちと市民生活が一体的に伝統として成り立っているところが、日本と少し違うと思います。六鹿:それはロンドンのリージェント・ストリートなどですね。市民参加で良い結果を出す上で大事なのは、立体で捉えるということです。前もって立体で捉えた上で「大丈夫だね。これなら道路を造ってもいいね」とすることが重要と思います。2点の間を一番合理的に結ぶのが道路だとすると、道路以外の建物のことはあまり考えないのではないでしょうか。あるエリアを道路も建物も含めて一体として、20年後は「こうしたいな」という総合的な将来像をつくってみたときに、模型をつくって立体的に見ればよく分かります。最短ルートを道路の機能だけで決めてしまうと、その結果できていく街は景観が良いかどうかは分かりません。都市は道路だけでもなく、街区だけでもなく、両方合わせて初めて都市なのです。建築と土木は分担が分かれていますが、重ねて考えて写真3稚内の北防波堤ドームいくのが大事なのです。長谷川:土木では構造物への外力から安全性を確保することが基本ですが、未曽有の自然災害からすべてを守るのは不可能です。ハードとソフトのベストミックスで守る概念が東日本大震災以降出てきました。安全を守り自然も守るデザインや景観の議論が必要ですが、土木にとってまずは安全を優先せざるを得ないと思います。六鹿:デザインという言葉には色々な定義の仕方があります。プランニング理論の勉強をすると、プランニングとデザインがほぼ同義に使われていることが分かります。デザインするということは、課題を物理的な形として解決をすることです。解決のプロセスと解決のプロダクト、その両方をデザインと言います。建築はデザインを、土木は機能を考えるということではなく、ともに機能も安全もコストも考えるということです。時代の価値観を伝える長谷川:日本橋の景観が問題になっています。時代背景や必要性でインフラが整備されるので、後の時代の価値観からみれば、全体の景観を壊すので、なぜ高速道路を地下に造らなかったのかとなります。土木構造物は単品で、造ったものは50~100年にわたって機能しなければならないので、その時の価値観や概念が重要視されます。六鹿:良い景観はやっぱり継承したい。東京で育った人にとって、子供の頃に親しんだ建物や景観はもうほとんどありません。それはちょっと寂しいことですね。長谷川:土木遺産という概念が出てきています。土木でいう景観美も含めて現在でも機能しており、建設当時への畏敬の念も込めて未来に残していくものを対象としてCivil Engineering Consultant VOL.274 January 2017003