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写真4スリランカの傾斜土槽平野の国である。同国のヒ素汚染は、上流のヒマラヤ山岳地帯で鉄と吸着して存在していたヒ素が、洪水等で流されて平野部の地層に含まれ、地下水が嫌気的環境となることで発生したと考えられている。本法によるヒ素の除去機構は、バングラディシュの汚染機構の逆方向の酸化的浄化機構によるものである。井戸水を酸化的環境下に曝すことでオキシ水酸化鉄が生成し、ヒ素は鉄酸化物と吸着して水から除去される。鉄の酸化には鉄バクテリアの関与も考えられる。■途上国の水質浄化技術「水の浄化とは何か」を考えると、通常H2Oの水分子自体に浄化の必要はなく、水中で水分子と混在している汚濁物質を分離することで浄化は成立する。この分離では膜処理技術が卓越しており、どのような汚水からでも飲み水を作ることが可能である。しかしながら、このような高エネルギー消費型の高度技術は、活性汚泥法の下水処理場が廃止されたネパールの状況をみても、途上国での一般的な運用は無理だと思われる。また、水と分離後の汚濁物質は、どのように処分するのかという問題もある。活性汚泥法による有機性排水の浄化では、含水率の高い汚泥が大写真5原水と処理水写真6バングラディシュの傾斜土槽写真7スポンジ担体の定期洗浄量に発生する。本法では含水率の低い土壌が生成し、台所排水浄化での生成土壌には肥料成分のリンが0.8%(dry)含まれていた8)。日本の下水処理場では、汚泥の大部分は焼却や埋立て処分にされる。途上国では、排水中のリン等の肥料成分の農地利用が可能な排水浄化システムが望ましく、本法は有効であると考えられる。■おわりに国内のダム上流域の排水対策として考案した傾斜土槽法は、ネパールの無動力での下水処理やバングラディシュの重金属で汚染された井戸水の浄水処理等へ、予想外に展開し始めている。本法の水質浄化は底面が傾斜した薄層構造体の横方向に、原水を自然流下させるというシンプルな方式である。この浄化効果は、生態系を利用した水質浄化としては最高レベルのものと考えられる。本法は今後の基本的な水質浄化技術の一つとなり、簡易で低エネルギー消費で浄化できることから、途上国の上下水処理技術として、今後広く普及していくものと期待される。<参考文献>1)傾斜土槽法による台所排水の有機性汚濁と栄養塩類の同時浄化、水環境学会誌、2005.5、生地正人,末次綾2)スポンジ担体を用いた傾斜土槽法による有機性汚濁物質と栄養塩類の同時浄化、水環境学会誌2014.7、生地正人ほか3)傾斜土槽法を用いた小規模な環境インフラの可能性について、水環境学会シンポジウム要旨集、2015.9、生地正人4)アジア開発途上国における傾斜土槽法(SSCM)技術紹介の取り組み、水土の知、2015.1、宮下武士、生地正人5)有機汚染水(BOD30mg/L)を飲料水に浄化する生物浄化ユニットの開発、緩速・生物ろ過国際会議、2014.6、丸山和秀、橋口佳史6)海外におけるヒ素汚染の実態と飲料水対策、水環境学会誌、2014.2、中島淳7)バングラディシュでのSSCM実証実験について、(独)水資源機構関東技術発表資料、2016、佐々原秀史8)傾斜土槽法を用いた富栄養化対策、用水と廃水、2005.12、生地正人Civil Engineering Consultant VOL.274 January 2017049