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デマンド交通ってホントに便利?移動制約者の問題が表面化してきた2000年以降、デマンド交通は多くの地域で導入されてきた。しかし一方で「デマンド交通って、不便で、輸送力も少なく、しかも金がかかる」という声が導入地域の多くで出ている。なぜだろうか。その最大要因は、複数の利用者を同じ車両に乗せて移動する「乗合」をさせるための運行ルートの作成を人手により行ってきたからである。人手による運行ルートの作成では、なぜ問題が生じるのだろうか。乗合の対象者が増えるに従い、運行ルートの候補数はその二乗で増える。そのため、予約を受けるたびに膨大な候補を確認して適切な運行ルートを作ることは、人手では事実上不可能になる。そこで、多くのデマンド交通では以下のような簡略化した方法で、利用者の予約に対応した運行ルートの作成が行われてきた。1 1時間で運行できる範囲(平地で7~10km四方程度)を設定し、そこに1時間ごとに1便を運行する。2 1便の乗車定員(9人乗りワゴン車1台なら9人)までの予約を受け付ける。それを超えた予約が来たら、空いている他の時間帯に変更してもらう。3定員に達するか出発時刻の少し前になると、オペレータがそれまでに集まった予約を見て運行ルートを決め、運転手に運行ルートを伝え運行を行う。このようにすると、1時間で運べる人数が定員で制限される(輸送力が低い)、利用者は予約をした時点では「何時の便」かがわかっても、何分に乗って何分に着くかはわからない(不便)、さらに、これらの処理を楽にするためにシステムを導入すると数千万円(当時)の費用がかかり、運行費用も別途発生する(金がかかる)ことになる。では、デマンド交通は使いものにならないかというとそうではない。そもそも、利用者が少なく乗合がほとんど発生しない地域(1時間に数人程度の利用)なら人手でも十分対応できる。利用者が多く(1時間に10人以上の利用)、乗合により運行効率が高められる地域で、人手で運行ルートの作成を行うために上記のような問題が生じるのであるから、これを人手に頼らず自動化すればよい。最新のオンデマンド交通システム「運行ルートの設定を、ゆとり時間などを用いたアルゴリズムを組み込んで完全に自動化すれば問題は生じない」という発想で当研究室が開発したデマンド交通が、オンデマンド交通システム「コンビニクル」だ。コンビニクルでは、車の移動時間に地域特性に合わせた余裕をあらかじめ持たせておき、その範囲で後から予約する人の乗降時刻を調整して、はじめの予約を変更せずに乗合を発生させる(早い者勝ちのルート設定)という仕組みを持っている。コンビニクルでも、パソコンやスマホなどを使えない人のために電話番としてのオペレータを置くが、運行計画はシステムによって自動生成されるため、オペレータは見守りサービスなどを行う余裕が持てるようになった。また、コンビニクルでは移動希望時刻や移動先、実際の移動時刻など多様なデータを記録する。その情報を活用して、早い者勝ちのルート設定(フルデマンド)だけでは運行効率が悪くなる可能性のある地域や時間帯に、利用記録から得られる移動特性に対応した移動パターンをあらかじめ設定しておく(セミデマンド)運行をシームレスに運用できる。将来的には、利用者の移動特性の類似性を利用したコミュニティ活動の分析や、移動特性にあった施設配置計画などへの応用、医療機関や福祉活動との連携、気象状況や消費活動など外部のビッグデータと連携したさまざまな商業活動への展開なども考えられる。システム導入地域で見えてきた効果と課題コンビニクルを利用している地域は全国で約40カ所になった(図2)。研究室では対応しきれないので、共同開発を行った民間会社がコンビニクルの運営を行い、毎日約150台の車両の運行計画を予約と同時に自動生成し、毎月約70,000人の方の移動をサポートしている。どの地域を見ても、利用者の80%程度が高齢者、その多くが女性で、利用目的は通院や買物が多くなっている。これらの中から、コンビニクルが記録したデータを利用して、住民のつながりの変化と医療費について調べたまきた三重県玉城町の例を紹介する。玉城町では社会福祉協議会が運営主体となって福祉や医療情報などとの連携をすすめてきた。導入から7年ほど経過し1日200件程度の予約を処理しており、オンデマンド交通利用の増加とともに、健康体操教室などの地域活動の利用者も当初の5倍以上に増え続けている。利用者の評価も、家の近くで乗降できるなどの利便性だけではなく、外出機会の増加や車内でのコミュニケーションが楽しいといった声が増えている。玉城町の利用データから住民のつながりの変化を分Civil Engineering Consultant VOL.280 July 2018023