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派生需要と本源需要の存在土地利用と交通は相互関係があると述べた。土地利用にあわせて交通が整備され、交通機関が変化すると土地利用も変化する。この議論を主従関係でみると、一般的に土地利用が本源であり、そこから誘発される交通は派生ととらえることができる。都心部で働くために毎日電車に乗るのであり、電車に乗るために都心部で働くのでない。土地利用が主であり、交通が従と考えるのが自然である。だからこそ、交通計画の目的は「早く・安く・快適」に移動することにある。生産的な土地利用を実現させるために、交通はその裏方となって都市活動を支える役割を担う。一方で、交通に日の目が当たることもある。例えば、先述したようにマイカーでのドライブなどが相当する。海岸線を、夕陽を見ながらドライブするのは、移動自体を楽しんでいるからである。あるいは、「ななつ星」や「四季島」のような高級リゾート列車での旅は、美しい車窓や豪華な車内インテリアなどを楽しむ。スポーツカーが人気なのは、移動自体を楽しみたいからである。つまり交通自体は移動の手段でもあり、ときとして目的ともなりうる。前者を派生需要とし、後者を本源需要として区別すると交通の本質が見えてくる。もう少しこの両者の違いについて考えてみたい。交通手段を選択するときに考慮する項目には、乗車時間や運賃、あるいは快適性など様々なものがある。到達するまでの時間も、かかる費用もできればゼロが望ましいため、負の効用(満足の度合い)ととらえることができる。外出するかどうかの選択は、目的地で発生する正の効用(例えばコンビニでコーヒーを買うことの満足)より、移動で発生する負の効用(歩いて15分かかることの不満)が高ければ人は外出しようとは思わない。近ければ買いに行くのにといった交通需要は、買い物が本源需要であり移動は派生需要と解釈できる。一般的に交通は派生需要であり、本来なら無くなってほしいので負の効用ととらえることができる。漫画の世界で「どこでもドア」が出てくるのも、交通の負の効用をゼロにしたいからである。一方で、移動の交通需要自体が正の効用をもっているケースもある。例えば、遊園地で乗るジェットコースターの需要は、出発地と到着地が同じであり、目的地で効用が発生するわけではない。その乗り物に乗りたいと思うのは、移動自体が本源需要となっているからである。この場合の移動は乗車時に得られる正の効用が、乗車費用といった負の効用より大きいから交通需要が発生効用+効用-図1本源需要と派生需要・本源需要(移動自体が目的)ジェットコースター、散歩など・本源的需要(移動の効用が高い)観光列車、ドライブなど・派生的需要(移動先の効用が高い)通勤鉄道、自動車など・派生需要(移動先の活動が目的)満員電車の地下鉄などする。世界遺産の観光地に行って街中遊覧をするバスに乗車したときに、観光ガイドから「時間がないので乗車時間は5分です」といわれたらどうであろうか。この場合は時間が短いほうが良いわけではないのは、乗車による観光が本源需要となっているからである。このように、移動自体と移動先の活動のどちらが目的となっているかによって、本源需要か派生需要かを分類できる。ただし厳密に考えると、人が移動する場合には少なからず正の効用と負の効用が同時に発生して、その合計値の最も高い交通手段が選択されている。完全にどちらかに偏っているわけではないので、その中間領域を本源的、派生的として図1に示す。この際に合計値が正となっている場合、その交通手段は本源的な需要が大きいと解釈できる。つまり本源的需要とは、「個人が交通手段を選択する際に、移動自体がもたらす正の効用が他の効用を上回っているときに生じる需要」と定義できる。その乗り物に乗りたいと思う気持ちが、時間や費用に勝っている状態のことをいう。逆に移動時の効用の合計値が負の場合は、派生的需要と解釈できる。なお、厳密に定義すると純粋な本源需要は都市交通ではなくなるので、以降は本源的需要について考える。交通の本源的需要の役割分担とまちづくりへなぜこのように回りくどく本源と派生を定義したかというと、本源的需要の役割を見直すべきと考えているからである。これまで交通計画の分野で、道路や鉄道を計画する際に交通需要推計がなされてきた。一日何台の車が利用するから、あるいは何人の人が利用するからどの程度の交通機関が必要であるといった具合である。事業の成否は事業採算性や費用便益比で判断されるが、その際に交通需要予測が極めて重要となる。しかし、この交通需要予測のほとんどは交通を派生需要とみなして計算している。交通手段選択の計算式の主たる変数は乗車時間、運賃であり、その係数は負とCivil Engineering Consultant VOL.280 July 2018035