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写真1水田オーナー制度写真2水前寺成趣園図9国連の「生命の水」最優秀賞受賞地下水涵養推進事業熊本地域では年間約6億m 3が地下水となり、そのうち水田や畑地・草地等で約80%を占め、熊本地域の地下水涵養には農地が大きな役割を果たしており、農林業等と連携した対策を行うことが重要となる。そのため、熊本市と企業等が最大の涵養効果がある白川中流域において、休耕田や転作田での湛水事業を行っている。財団においても農家を支援し、米作が終わった冬季の水田に5カ月間の水張をして地下水涵養を行っている。また、高齢化や後継者不足などの理由から営農が危ぶまれる農家には、企業や個人、団体が水田のオーナーとなり支援し、生産者と交流を行いながら田植えや収穫を通して、水田の保全と涵養を図る水田オーナー制度を行っている。毎年、多くの団体や家族が参加していただいており、農業支援とともに農業体験をとおして水循環を実感する機会となっている。さらに、森林の水源涵養機能には地下水涵養と河川水の流量調節が重要で、熊本地域でも、多くの行政や団体、企業等が水源涵養林を所有又は支援しており、財団でも64haの水源涵養林を所有し、涵養機能を高めるため10年計画で間伐等の整備を行っている。間伐等による森の涵養効果について検証していくため、雨量や流出水量、気象などを観測し、地下水涵養効果の検証評価を行うとともに、森の保全に取り組んでいる。この他、地域住民の地下水保全意識の向上を図るための広報や節水パレード、顕彰制度、そして地下水の有効活用に関する量水器や雨水タンクへの補助事業なども展開している。地震を受けて平成28年4月に熊本地震が発生し、2度の震度7の地震により、甚大な被害が発生し多くの住民が被災した。熊本県内で最大約43万戸が断水し、水道の全面復旧までに熊本市で約2週間、益城町で約1カ月かかり、風呂やトイレ、調理など生活用水に困窮した。このような状況の中で、水前寺成趣園の湧水が一時期枯渇し、熊本の地下水は枯れてしまうのかと不安な声もあがったが、成趣園の湧水は1カ月ほどで復活した。また、多くの井戸では一時的に濁りが発生したものの回復し、以前と変わらずに使用できていた。この様な経験を通して、改めて水のありがたさや大切さを痛感させられた。この記憶を風化させず、恵まれた地下水を確実に次の世代へと引き継いでいく必要がある。今後に向けて熊本地域でのこのような取り組みは、40年以上前から多くの人々が問題に気づき、研究し、行動してきた結果である。行政・学識経験者・事業者・住民等が、熊本地域の清冽で豊かな地下水を守っていくための取り組みだ。地下水位の低下傾向に下げ止まりがみられてきているなかで、平成25年3月には、地域で連携し自然のシステムを活用した広域的な地下水保全の取り組みが、優れた水管理の事例として国連の「生命の水(Water forLife)」最優秀賞を受賞し、世界的に高い評価をいただくことができた。評価のポイントは、行政域を超え、地下水流域を一つの単位として、行政、住民や企業、農業関係者など多くの人が地下水保全に関わっていることと、それぞれが連動して保全のための資金制度を確立し、世界に先んじて地下水保全の仕組みとそれを運営する組織を立ち上げ実践していることであった。この熊本地域の清冽で豊かな地下水は、様々な水のバランスの上で成り立っている。今回の熊本地震を乗り越え、熊本の地下水の持続的利用に向け、引き続き地域をあげて地下水保全に取り組んでいきたい。Civil Engineering Consultant VOL.281 October 2018019