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写真4上流部の砂防堰堤写真5 海外からの観光客も多く訪れる現在の宮島まに、それが風化した真さ砂ど土が広く分布している。真砂土に流水が加わると容易に動き、あわせて巨石が移動する。転出する巨石は周辺の河床等に衝突し土砂を新たに発生させ、転出するにしたがってその規模と勢いを増していく。これが土砂災害の被害を拡大させる原因となっていた。そのため、紅葉谷川の砂防にあたっては、巨石の転出を防ぐことと、河床等からの土砂の発生を防ぐことが必要であり、上流部の約1.3kmの区間では巨石の転出を防ぐ砂防堰堤15基を整備し、下流部の庭園砂防の範囲約1.4kmの区間では、土砂の発生を防ぐ流路工等の工事が行われた。上流部は土砂の発生を抑制することを優先した砂防施設であるが、堰堤を石組みで覆うなど景観への配慮も忘れられていない。堰堤は巨石の直近に整備され、堰堤に堆砂する砂と堰堤によって転石を防ぐ仕組みとなっている。下流部では点在する巨石をあえて取り除かず、配置を工夫して土砂の流出を防ぐ石組みの一部として活用するなどの工夫が取られた。さらに急な落差によって河床が削られないように、複数の段差を石組みによって作り出し、高低差が低く自然景観に近い流路の整備がなされている。庭園砂防は総事業費2,415万円(現在の金額で約1億3千万円)をかけ1950年度に完成した。完成から70年あまりが経過しているこれらの砂防施設では、その間、大規模な修繕は行われていないにも関わらずその機能は保たれている。さらに2005(平成17)年に同様の被害を受け復旧した近傍の白糸川の砂防工事でも、「滝と清水」をテーマに、砂防と景観を両立させる工夫が継承されている。■宮島の風景1947年7月にギャラーに提出された野坂宮司・宮郷町長の請願書には次のような記述がある。「宮島は1945年9月の台風により大きな被害を受け、島の美しさは失われてしまった。春と秋の強い風雨が被害をその都度拡大させており、復興は非常に困難と思われる。…(中略)…しかし我々は、この島の復興は、日本人の貴い精神を復興させるとともに、何千もの旅行者が海外から訪れ国際的な友好をもはぐくむことになると確信している。(原英文を著者訳)」かつて土砂に埋もれた宮島には、今では年間30万人近くの外国人観光客でにぎわう風景を目にすることができる。その姿は、ギャラーや坂田らをはじめ、当時、紅葉谷川の砂防の実現に向けて尽力した人々の想像をはるかに上回るものとなっている。この姿を守り続けてきた紅葉谷川の庭園砂防は、自然の景色に溶け込み、ともすればそれと気づかない風景を見せている。この風景に込められた幾人もの人々の熱意と工夫を知ることも面白いのではないだろうか。最後になるが、今年は西日本で大きな被害をもたらす豪雨が発生した。本稿は西日本豪雨以前の取材をもとに執筆したものであるが、紅葉谷川では特に大きな被害は生じなかったとのことである。改めて砂防施設の効果を実感するとともに、庭園砂防の実現に力を注いだ当時の人々に敬意を表したい。<参考資料>1)『日本三景宮島紅葉谷川の庭園砂防抄』広島県土木建築部砂防課1988年2)『世界遺産・厳島先人に学ぶ防災の知恵』中電技術コンサルタント株式会社2007年3)『砂防の観点から見た宮島』(厳島研究12号)広島大学世界遺産・厳島-内海の歴史と文化プロジェクト研究センター-2016年4)『空白の天気図』柳田邦男1981年新潮社5)『紅葉谷川の砂防堰堤図集』広島県土木建築部1990年6)『Itukushima Shrine』(GHQ/SCAP Records, Research File & Publication1946-50, Box5858 Folder9)国立国会図書館憲政資料室蔵7)「地域の砂防情報アーカイブホームページ」(http://www.sabo.pref.hiroshima.lg.jp/saboarchive/saboarchivemap/index.aspx)広島県<取材協力・資料提供>1)広島県土木建築局砂防課<図・写真提供>図1参考文献5を基に株式会社大應作製図2紅葉谷川庭園砂防パンフレット図3参考文献1P42上、写真3、5有賀圭司写真1広島県写真2国立国会図書館憲政資料室蔵写真4山口佳織Civil Engineering Consultant VOL.281 October 2018045