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写真5元は水槽だったリハーサル室写真6館内に残る配管写真7稲葉地公園議会で「中村図書館は、改造後20年を経ており傷みが激しいが、改築の考えはないか」とただされた。このように構造的な問題と老朽化から図書館移転の機運が高まり、図書館は中村公園内に移転することが決まった。そして1991(平成3)年、中村公園内に移転した。■市長と俳優の対談から図書館移転後の旧稲葉地配水塔の利用については、様々な活用案があがったがなかなか決まらなかった。1991年11月、当時の市長西尾武喜が名古屋で劇団を主催する天野鎮雄と対談した際に、「発表する劇場はたくさんあるが、練習する施設がない」と言われたことがきっかけで演劇練習館へと転身することとなった。西尾市長も元水道局長であり、配水塔を図書館へと改修した際には施設課長として工事に携わっていた。その後、1994(平成6)年から12億2,700万円をかけて改修工事が行われた。地域のシンボルとなっている外観を保存しつつ、レイアウトの変更が行われた。最上部に位置する水槽をリハーサル用の部屋に改装する際には、広い空間を確保するために一部水槽内の柱の撤去も行われた。強度を保ちつつ広いスペースを確保するのは大変な作業であったと想像できる。翌年12月、名古屋市演劇練習館「アクテノン」として2度目の再生を果たした。「アクテノン」とは、演劇の「アクト」と水の「アクア」、それと「パルテノン神殿」を合成した愛称である。水槽であった5階はリハーサル室となり、照明や音響機器が完備されている。2階から4階は5つの大練習室、3つの小練習室に加え、和室や研修室もあり、野外劇場も備えている。演劇やミュージカル以外にもバレエ、日舞、詩吟、ダンスなどの練習に利用されている。2017(平成29)年度は延べ6万5,000人以上が利用し、日数月平均利用率は99%を超えている。2度のリノベーションを経た旧稲葉地配水塔は、全国的にも珍しい演劇練習専用の施設として現在でも賑わいを見せている。■地域のシンボルとして演劇練習館を取り囲む稲葉地公園はグラウンドやコミュニティセンターなどもあり、市民の憩いの場ともなっている。そこに舞台道具のような大きな荷物を持った人が来て、演劇練習館に吸い込まれていく。初めて見る人には驚きを与えるギリシャ風建物だが、市民にはあって当たり前の存在になっているのだろう。廃屋同然となっていた倉庫時代には、「無用の長物だから壊せ」「シンボルだから残せ」という両方の意見があったようだが、現在リノベーションを受けて新たな役割を担っているこの施設は、もう「無用の長物」とは言われないであろう。1996(平成8)年に「名古屋市演劇練習館及び稲葉地公園」として名古屋市都市景観賞を受賞し、2014(平成26)年には旧稲葉地配水塔として土木学会選奨土木遺産に認定された。2度転用されたこの演劇練習館は、土木施設の再生利用の重要かつ貴重な事例であると言える。そして何よりも地域のシンボルとして愛され続けたこの白亜の建物が、今後もこの地域を見守るように立ち続けていてほしい。<参考資料>1)『名古屋市水道百年史』名古屋市上下水道局2014年2)『感激なき人生はうつろなり若手技術者への伝承』西尾武喜2005年水道産業新聞社3)『地域資産としての名古屋市演劇練習館(旧稲葉地配水塔)に関する研究』田中良英・岡田昌彰土木計画学研究・論文集Vol.24 No.2土木学会2007年4)『さようなら配水塔の図書館-中村図書館25年のあゆみ-』名古屋市中村図書館1991年5)『水の話あらかると水の土木遺産旧稲葉地配水塔』水とともに2010年1月号No.76水資源機構2010年6)『見どころ土木遺産旧稲葉地配水塔』中村晋一郎土木学会誌Vol.101 No.10October土木学会2010年7)『名古屋市演劇練習館紹介』公益財団法人名古屋市文化振興事業団<取材協力・資料提供>1)名古屋市演劇練習館2)名古屋市上下水道局水の歴史資料館<図・写真提供>図1名古屋市演劇練習館写真2、3、4名古屋市上下水道局水の歴史資料館P22上、写真5飯塚理恵写真1塚本敏行写真6髙橋真弓写真7佐々木勝Civil Engineering Consultant VOL.282 January 2019025