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論説・提言第12回このコーナーでは「日本が目指すべき姿と社会のあり方、そこで必要とされるインフラと実現に向けた方策、そしてその際に果たすべき建設コンサルタントの役割とは」をテーマに、各専門分野の視点からの提言を掲載しています。激甚化する豪雨・洪水災害への対応2018年も、西日本豪雨、台風21号、24号による激甚な洪水災害。いまだに復旧にあわただしいところも多い。治水、水防災は国土保全の最大の課題で、長年にわたって取り組んできたものだ。官学民、学術・技術・行政の連携が期待されている分野で、これまでも多大の努力がなされてきたものの、災害の頻発や激甚化を目の当たりにしてまだまだ根本的課題が残っていそうである。我が国の治水は、豪雨を流域で受け留めて水系に導き、安全に疎通させて、流域の生活圏を水害から守ろうとするものである。戦後の度重なる台風来襲とそれによる被害への対応から、昭和40年代、「確率洪水」の概念での治水対応が近代化されたと言えよう。確率洪水とは、たとえば年最大の一雨降水量を標本としてその分布形を想定し、超過確率の大きさで計画規模を定めようとするものだ。数10年のデータしかない状況で、100年に一度を見通した「推計」に基づく計画は画期的だった。対数正規分布等に基づいて推計、いわゆる治水目標が立てられたのは高く評価される。その後、データの蓄積が進み、また極値分布の研究によって適合度の高い分布形を使う技術が進み、マニュアル化された。適合度が高いほど分布形は実存するデータに依存し、2年続きの既往最大や、かけ離れた既往最大の出現に慌てふためかねばならない。ましてや、温暖化に伴う気候変動、10数年単位の周期性など、じっくり見極めねばならない時期が来ている中、データに適合する分布形を忠実に求めるスタンスは問い直されるはずだ。昭和40年代に近代化された工事実施基本計画は、河川法改正(1997年)後、河川整備基本方針として検証され、これに基づく整備計画で20~30年の目標へのメニュー(洪水調節施設と河道・堤防整備)が進捗中である。河川法改正後、河川審議会での基本方針、流域委員会等での河川整備計画の議論が集中的にされた中、治水計画に必要な技術が整理され、議事録などの公開も伴ってコンサルタンツ技術者の技術の向上、均質化も図られた。一方で技術が些末化し、本質的な議論が少々置き去られたことも否めない。語り手辻本哲郎(TSUJIMOTO Tetsuro)名古屋大学名誉教授金沢大学自然科学研究科特任教授一般財団法人河川情報センター・河川情報研究所長1949年、奈良県生まれ。1975年、京都大学工学部工学研究科修士課程土木工学専攻修了。1978年、京都大学大学院工学研究科博士課程土木工学専攻単位取得退学後、同大学工学部助手。1979年、工学博士(京都大学)。1984年、金沢大学工学部助教授。1987年、スイス連邦工科大学ローザンヌ校招聘教授(1988年2月まで)。1997年、名古屋大学大学院工学研究科助教授。1998年、名古屋大学大学院工学研究科教授。2002年、東京大学大学院工学系研究科教授併任(2005年3月まで)。現在、名古屋大学名誉教授、金沢大学自然科学研究科特任教授、一般財団法人河川情報センター・河川情報研究所長。治水計画の構造が明確化されると、整備計画の途中はおろか達成時でも基本方針が対象とする外力(豪雨・洪水)を十分に防御できるものでないことが認識され、水防活動によって既存の治水施設を補助したり、氾濫に備えて適切な避難をしようとする水防災の役割が浮き彫りになった。これらは、それまでも地方行政が担ってきたものであるが、治水整備を担う河川管理者による適切な情報提供があってのものだ。整備計画でも、目標とする治水整備との両輪として、河川管理者が示す浸水想定に基づく地方行政によるハザードマップ公表がうたわれた。また、河川法改正に時期を同じくして、土木学会水工学委員会に初めて河川部会が設置され、研究者、技術者、そして行政に携わる者が一同に会して議論する場ができた。河川法改正とともに取り込まれた河川環境、特に河川生態にかかわる課題、河川の本質である総合土砂管理、河川災害の特性など活発な議論が行われるようになった。河川技術シンポジウムが「新しい河川整備・管理の理念とそれを支援する河川技術」という冠をつけて始まり、今日までその冠を下ろしていない。科学的なアプローチでの技術を行政に生かすという、治水・水防災に限らない国土保全にかかる基本的なスタンスが根付き始めたのは大きな成果だ。一方、学術がツール化され、厚みのある議論がされないまま技術化され、行政の場におろされていく流れに危惧を抱かないでもない。これを抑止できる真摯な議論の場が望まれる。002Civil Engineering Consultant VOL.282 January 2019