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Consultant282

治水整備と水防災体制の進展にもかかわらず水災害の猛威は収まらず、苦い思いを繰り返す日々だ。新しい体制にはいって直後の2000年には東海豪雨。都市が大規模浸水にさらされ、河川・下水の複合災害、都市機能の麻痺につながる災害連鎖や避難に向けたハザードマップ整備などが集中議論された。2004年には台風10個が来襲し、破堤氾濫が印象に残るとともに200名以上の水害による犠牲にハード・ソフトの連携が提唱された。その後続く激甚水害の前触れ、そしてそれへの対応の議論の多くはこのとき経験していたのだ。確実な治水整備(破堤対応や異常洪水時のダム操作のあり方の精査)や確実な避難の実施への方向性など、このとき何を考え、何をしようとして、何ができなかったのか・・・。またこの頃、ゲリラ豪雨の危険性が認識され、空間解像度の高いXバンドレーダの緊急配備やデータ配信などの手が打たれた。一方、2005年のハリケーンカトリーナによる米国ニューオリンズ水没災害は、伊勢湾台風の悲劇を彷彿させ、三大湾での大規模氾濫対応の議論が始まった。中部でスーパー伊勢湾台風を想定した東海ネーデルランド高潮洪水地域協議会が発足し、危機管理行動計画の議論が始まった。これは今日まで継続的に活動が続いている稀な例である。2011年の東日本大震災は想定を超える、あるいは1000年に一度のような、稀ではあるが極めて巨大な災害をどう考えるかのきっかけとなり、水害にも施設計画規模のL1に加えて、想定最大規模L2の概念が入った。この年の紀伊半島豪雨ではいくつもの山腹崩壊による天然ダムが問題となり「深層崩壊」対応が課題となった。2012年には九州北部豪雨で矢部川が破堤し、パイピングによる破堤機構が話題となった。線状降水帯への注目も始まった。2014年にはこの線状降水帯が広島土石流災害を引き起こし、土石流災害の引き金としての表層崩壊とレーダ雨量データの対応が議論された。こうした様々な水災害の勃発ごとに、水防法や砂防法の改正とともに、河川管理が関わる面も多様化してきた。とくにハザードマップ、タイムラインで標準化されてきた水防災への河川情報・河川管理技術の的確な提供である。こうした対応力の向上にもかかわらず、2015年の鬼怒川水害は破堤~大規模氾濫~広域避難と治水・水防災の一連の議論の必要性を再認識させるもので、まさに「水防災意識社会の再構築」をせまるきっかけとなった。L2豪雨による浸水想定をもとにしたハザードマップ、大規模氾濫減災協議会設置によるライフラインを目指した議論などが矢継ぎ早に政策化された。さらに洪水予測の精度向上、危機管理型水位計導入による水位観測網の強化が目論まれている。こうした中での2017年九州北部豪雨、そして2018年7月の西日本豪雨、21、24号台風の激甚災害。どのような施策やそれを支える情報、さらには技術が具体的に様々な災害とその対応のどの局面で効果的なのか、あるいは技術的に未熟なのかをしっかり評価していく必要がある。次々に発生する災害に慌てふためいて拙速な対応を論じる以上に、体系的な技術の進展とその不備な側面の明確化が今ほど求められているときはない。にもかかわらず行政が施策の迅速さ、技術が表面的な情報の解像度のみを追い、学術も本来の現象を見極める役割を十分に果たしていないのではないかが危惧される。新しい学術・技術・行政あるいは官学民連携の在り方を再度探り、お互いの責務を果たしていきたいところである。コンサルタンツ技術者も日常業務に追われる今日こそ、あえてこうしたところを撃破できる力を身につける研鑽を大事にすべきだ。Civil Engineering Consultant VOL.282 January 2019003