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ビッグネームの実態高僧が関わったインフラ整備もあった。行基(668~749年)ちょうげんや空海(774~835年)、重源(1121~1206年)らが有名であるが、土木技術史の実態はこのようなビッグネームの羅列では、もちろんありえない。和泉を拠点に摂津・河内などに及ぶ活発なインフラ整備を担ったのは“行基集団”である。行基自身と弟子僧、俗界の在家信者が核となり、その外側に何層もの構造をなす。現地の首長層とその傘下の村落農民が主体的に関わって事業を行い、周辺地域からも首長層・農民が協働した。他人への善行「利他ぎょう行」の実践という高邁な理念は、公共事業に尽くせば現世で報われる、現に収穫が向上することわりという因果応報の理として受け止められた。行基集団は信者を増やし、帰依者からの布施で得た生活物資以上のものは労働に参加する人々に再分配し、雇用労働の先駆けをなした。道路や架橋、特にため池や水路の開発は、基盤を確立しようと目論む現地首長層の利益に合致し村人をも益する。周辺からの協力は、現場が移れば主体と協力者の立場を交替する。参加者一同がWin-Winに結びついた。りた図1久米田池と隆池院久米田寺図2水田稲作文化の展開開発手法も合理的だった。池の築造に際して寺院を氏族がおり、信仰と利害の調和した氏族たちとのネット建立して普請の拠点とし、完成後は水利を得た墾田のワークが目覚ましい成果を上げたのである。一部を財源として池の維持管理を務めた。大阪府岸和ビッグネームを持つ高僧の活動はいずれもこのような田市にある久米田池のほとりの久米田寺が「隆池院」ものであろうが、周囲にいたはずの僧侶・信者層らしきの号を持つことはその事情をよく物語る。実働部隊の顔はやはり埋もれている。大規模なインフラ整備が行基集団の活動に伴って成就したのは、行基の出自や修行も関わってこようが、縁水田という民藝の世界の深い氏族との関係によるところが大きいだろう。古墳古墳や都城、条里など、目を見張る成果を高級な芸造営を担った土師氏をはじめとして、特別の職能を持つ術作品とすれば、これに対して名もなき民の芸術、“民014Civil Engineering Consultant VOL.283 April 2019