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特集3妖土木技術者の姿怪とよばれた土木技術者中尾聡史NAKAO Satoshi京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教森栗茂一MORIKURI Shigekazu大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授「土木工事で働かされた人形の成れの果てが河童である」という民話が全国に広く伝わっている。民話の中に出てくる河童は実在した人間であることが示唆されているが、彼らはなぜ妖怪とされてしまったのだろうか。伝説や伝承の中に隠された土木技術者の姿を知る。歴史の陰に埋もれてきた土木技術者日本の津々浦々を生涯にわたって歩きまわり、庶民の生活に目を向けてきた民俗学者の宮本常一は『生業の歴史』と題した著書の中で、次のようなエピソードを紹介している。「土木建築の工事がなされても、讃えられるのはその工事を直接担当した大工や石工ではなく、その工事を計画し出資した人であった。私はかつて熊本県の石橋を調べて歩いたことがあった。熊本県の山間部には目を見晴らせるようなすばらしい石橋がいくつとなくある。それが深い渓谷の上にかかっている。それらの石橋をかけるために苦心して資金を集め、計画した人の名は今もよく伝えられまた人にも知られている。矢部町の通潤橋という見事な石橋をかけた布田保之助ふたやすのすけの名は県下に知れわたっている。しかしその直接橋の工事を行った石工たちの名を記憶している人は少ない。」橋や堤防、ダム、道路などの土木構造物は、私たちの生活を支え、暮らしを豊かなものにしてきた。しかし、土木事業を計画した人物や出資した人物について、取り上げられることがあっても、宮本の言うように、現場で汗を流した土木技写真1宮本常一術者については、あまり注目されて来なかった。そこで、歴史の陰に埋もれてきた「土木技術者の姿」について、私たちの生活文化である民俗の視点から考えてみたい。漂泊の民日本民俗学には、その創始者である柳田国男が考案した「常民」という概念がある。「常民」とは、平地部に定着し、水田稲作に従事する農業民のことを指す。柳田は、日本の人口の大半を占めていたとされる常民に焦点をあてることで、日本人の家制度や祖先に対する観念の分析において大きな成果を収めたのである。しかし日本には、定着農業民である常民だけが暮らしていたわけではない。定住をせず、各地を放浪し生計を立てていた人々も存在した。家財道具を背負い集団で山間水辺を漂泊し、箕づくりを生業としたサンカ(山ろくろ窩)や、山中において轆轤をひいて器を作り、良材がなきじしくなると他に移動して生計を立てていた木地師などがこれにあたる。常民の世界の外には、特殊な技術をもった漂泊の民がおり、民俗学では、こうした人々のことを常民と対比して、非常民と呼んでいる。初期の柳田民俗学においては、『遠野物語』『山の人生』に代表される山人などの非常民の研究が行われてけぼうずこういた。そして、非常民の研究である『毛坊主考』では、中世において漂泊の民が、井戸掘りや池作りなどの土木技術を携えていたことを指摘している。このことは、三浦圭一をはじめとする歴史学者によっても、近年、明らかにされつつある。020Civil Engineering Consultant VOL.283 April 2019