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写真4河童想像模型そして、この鉱山師は「鬼」と呼ばれていたことが、若尾によって明らかにされている。鬼とは昔話に登場する、頭には角を生やし、金棒を持ち、鋭い牙を持った妖怪のことである。若尾は、鬼伝説が語られる神社仏閣周辺や鬼の名前がつく地には、鉱山跡やたたら跡があることを、丹念なフィールドワークを通して発見し、鬼とは金、銀、鉄を掘り起こす鉱山技術を持った鉱山師やたたら師であることを説いている。柳田もまた『毛坊主考』の中で、鬼の一部に、山人や漂泊の人々の存在があることを指摘している。若尾の鬼に関する研究は単なる民話構造研究ではなく、歴史学的にも実証される鉱山技術者集団の実相に迫るものである。連綿と受け継がれてきた伝承このようにみてくると、河童や鬼の伝承の一面に、河原や鉱山を拠点として活躍した土木技術者の姿が見え隠れしているのである。もっとも、河童や鬼と伝承された人々が、サンカなのか、黒鍬なのか、はたまた鉱山師なのか、それともその複合なのかは、ケースバイケースで、漠として分からない。しかし、定着農業民である常民の世界の外に、漂泊する土木技術者の姿があったことは間違いなく、河童の民話や鬼の伝説こそ、その生き証人なのである。書き遺されたものだけが歴史ではない。人々の生活の中で、連綿と受け継がれてきた伝承もまた土木技術者の歴史を語る重要な史料なのである。<参考文献>1)宮本常一:『生業の歴史』未来社、19932)柳田国男:「毛坊主考」『近代日本思想体系14柳田國男集』筑摩書房、19753)三浦圭一:「中世の土木と職人集団」永原慶二・山口啓二編『講座日本技術の社会史土木』日本評論社、19844)柳田国男:妖怪談義『定本柳田国男集第4巻』筑摩書房、19635)折口信夫:「河童の話」『折口信夫全集第三巻』中央公論社、19666)柳田国男:「桃太郎の誕生」『定本柳田國男集第八巻』筑摩書房、19697)松谷みよ子:民話の世界、講談社、20148)若尾五雄:『河童の荒魂河童は渦巻である』堺屋図書、19899)森栗茂一:『河原町の歴史と都市民俗学』明石書店、200310)市川秀之:『オワリ衆の伝承を追って―近世の池溝築造技術者集団―』近畿民俗、Vol.125,pp.1-15、199111)川元祥一:『被差別部落の生活と文化史』三一書房、199112)宮本常一:「民衆と文化」『宮本常一講演選集2日本人の知恵再考』一般社団法人農山漁村文化協会、2013<写真提供>写真1周防大島文化交流センター写真2塚本敏行写真3国土交通省中部地方整備局木曽川下流河川事務所写真4、5国立歴史民俗博物館所蔵写真5『大江山酒呑童子絵巻』の鬼Civil Engineering Consultant VOL.283 April 2019023