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巻頭言Consultants「萬象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ」田部井伸夫一般社団法人建設コンサルタンツ協会中部支部長常任理事「萬象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ」「人類ノ為メ国ノ為メ」これは、信濃川補修工事竣工記念碑に当時の内務省新潟土木出張所長であった青山士氏が刻ませた碑文です。ここで青山氏の略歴について紹介します。青山氏は1903年東京帝国大学土木工学科を卒業後、恩師の廣井勇の薫陶を受け、1912年までパナマ運河の建設に携わり、帰国後は内務省に採用され東京土木出張所に勤務し、荒川放水路建設工事に従事しています。前述した信濃川補修工事に従事したのはその後のことです。この補修工事は、内務省が建設した大河津自在堰が崩壊し、内務省の威信が地に落ち、この名誉回復のための工事でありました。青山氏は従前の自在堰の建設に13年かかったものを、5年で完成させました。1934年に内務省技監に就任し、「技術は人なり」との信念を貫き、建設行政を指導しました。1935年には第23代土木学会会長に就任し、翌年の会長退任後に土木学会の「土木技術者相互規約調査委員会」の委員長に就任しました。この委員会は土木学会の振興のために「土木技術者の倫理規定」を策定する目的で設置されたものです。1938年に委員長である青山氏の意向が強く反映された倫理規定が「土木技術者の信念および実践要綱」として発表されました。以下にその一部(信念)を紹介します。【土木技術者の信念】1. 土木技術者は国運の進展ならびに人類の福祉増進に貢献すべし。2. 土木技術者は技術の進歩向上に努め、ひろくその真価を発揮すべし。3. 土木技術者は常に真摯な態度を持し、徳義と名誉を重んずべし。1938年当時の時代背景を考えると、青山氏ら我々の先輩の見識の高さには敬服します。青山氏だけではありません。台湾の嘉南平野に1930年当時東洋最大規模のセミ・ハイドロリックフィルダムである烏山頭ダムを建設し、15万haの広大な嘉南平野に延長1.6万kmの給排水路を張り巡らせ、不毛の大地を一大穀倉地帯へと変えたのは八田與一氏です。現在でも嘉南平野の人々は彼の業績を忘れずに、戦中戦後を通して、そして今も5月8日の命日には追悼式を続けています。また、李登輝元台湾総統も八田氏の生き方や思想を絶賛しています。それは、八田氏が「ダムや水路を造るのであれば、その施設を利用して15万haを耕すすべての農民にあまねく水の恩恵を与え、生産が共に増え、生活の向上ができて初めて土木工事の成功である」と考え、基盤整備後の地域経営まで関与したからです。青山氏や八田氏、そして我々の多くの先輩は「人々を幸せにすることが土木の仕事であり、そのためには高い倫理観と人々を愛する豊かな人間性を土木技術者が持つことが極めて大切である」と考えていたと思います。土木技術はもっとも古い歴史をもつ技術といわれます。人類が登場して生活を営み始めるにあたって、竪穴住居をつくるにしてもまず土地を掘削する必要があったり、歩いていくためには原始的な道を切り開いたり、木の橋を架け渡さなければならなかったであろうと思います。つまり人々を豊かにする技術です。土木事業は国土や風景を大きく変えます。土木事業が人間の生活にどのように大きな影響を与えるか真剣に思考すること、人々の生活をいかによりよくできるかを真剣に模索することが、土木技術者の基本的な素養ではないかと思います。AIやIoTなどに代表される革新的技術により新たな土木技術が生まれようとしている現在においてこそ、この土木技術者の素養を我々は強く意識・自覚する必要があると思います。