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Civil Engineering Consultant VOL.286 January 2020 003高齢者の認知症で軽度な場合は一人で鉄道利用をすることもあり、安全対策や周囲の理解・支援が必要となってきます。さらに、警察庁によれば認知症やその疑いのある行方不明者として届けられた人数は年間1万人近くいます。これを受けて厚生労働省は市町村の徘徊見守りSOSネットワーク事業の実施状況などを調査するよう各自治体に促していますが、「認知症高齢者のSOSネットの設置」について「整備済み」と答えた自治体は3割未満にすぎません。認知症の人の困りごと認知症では、脳や身体の疾患を原因として記憶・判断力などの障害が起こり、新しいことが記憶できなかったり、思考スピードが低下して2つ以上のことを同時に考え分けることができなくなったりすることがあります。認知症の人にとって住み良いまちづくりへの施策を探る目的で行った国際大学グローバル・コミュニケーションセンターの調査によれば、住んでいる地域が「認知症の人にとって住みよい所である」と回答したのは全体の4割です。認知症の影響で生じたこととして6割以上が「友人や知人と会う機会」「電車やバスなどの利用」「買い物や外食に行く機会」が減少したと回答しています。「駅構内で迷ったり、適切なバス停を探しだす事が難しい」「券売機や自動改札など機械操作が難しい」「ATMの操作が難しい」「電話や携帯、メールなどの通信機器を使うことが難しい」などを困りごととしてあげている人は4割以上です。こうした点を考慮すれば、地域社会における認知症に対する理解の促進や偏見の除去、生活利便施設での適切なサポート、認知症の人も利用しやすい商品やサービスなどトータルな取り組みが必要であることがわかります。自治体での取り組み神戸市は認知症高齢者に優しいコミュニティの推進を盛り込んだ「神戸宣言」を採択しています。また認知症の人が事故にあった場合、責任の有無を問わず給付を行う「見舞金(給付金)制度」と、賠償責任がある場合は保険金をさらに上乗せして支給する事故救済制度を創設し、2019年4月から運用をはじめました。また、大牟田市では「安心して徘徊できる町」を目指しています。小学校区などの身近な圏域で自治会や民生委員などを活用し、徘徊の人を地域で早期発見する「徘徊模擬訓練」を2010 年から開始しました。警察や消防、行政が連携し、地域住民や介護サービス事業者等に情報伝達を行い、その情報を得た住民らがサポーターとなって徘徊者を無事に保護する試みです。地域での理解を深めるため、2004 年から認知症の啓発のための絵本をつくり、小中学校への出前教室を始め、10 年間で約6,000人の子供たちが認知症について学習してきました。同様に富士宮市でも「介護保険だけに頼らずに『地域で』支える」を掲げ、タクシー協会、清掃業者、商店街、旅館組合など20以上の団体を巻き込んだ暮らしやすい町づくりを実践しています。認知症への理解を広めるパンフレットの全戸配布、寸劇による市民向け認知症出前講座の開催だけではなく、市主催の「認知症サポーター養成講座」も立ち上げ、認知症サポーターは231回の養成講座を経て合計8,006人となり、児童・学生、消防、警察など多岐にわたります。高齢者の安全確保に賛同する市民や事業者には、認知症サポーターステッカーが付与され、支援者の「見える化」を進めてきました。さらに認知症の外出支援、見守りのために、高齢者が歩きそうな道路沿いの個人宅や商店に徘徊の理解を求め、行方不明になって1時間以上発見できない場合は警察や地域内の同報無線、ラジオで情報が流れる仕組みになっています。おわりにエレベーターやエスカレーターの設置など、障害者や高齢者など誰もが暮らしやすいユニバーサルデザインの街づくりは徐々に進んできましたが、認知症に対する社会の理解はまだ不十分です。認知症の人や家族が安心して暮らすには、行政や介護・医療の専門家による支援だけでは限界があります。家族が安全を考えるあまり、自宅に鍵をかけて認知症の高齢者を外に出させないようでは人間的な暮らしが実現できません。地域社会が認知症に対する関心を持ち、「他人事としない」ことや、周囲が認知症の特性を理解した上で適切な声かけ、誘導、サポートができることが望まれています。<出典>図1 「平成25年度 認知症総合対策研究」公益財団法人 長寿科学振興財団図2  認知症サポーターの自宅用ステッカー(店舗やタクシードライバー用もあり)