ブックタイトルConsultant287

ページ
20/86

このページは Consultant287 の電子ブックに掲載されている20ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant287

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant287

018 Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020れ、ウィーンのカフェに通っていたシュテファン・ツヴァイクは「あらゆる新しいものに対する最良の教養の場所は常にカフェだった」と述べている。モンテスキューは「カフェを出るとき、入った時に比べて4倍頭が良くなったと思わぬ者はいない」と述べている。それほどまでに、新しい時代のあり方を模索している者たちの知のぶつかり合いは刺激的であり、彼らの知性は議論によって急速に磨かれていったのだ。カフェでの学び合いが素晴らしいのは、学校のように教師が一方的に何かを教えるのではなく、そこに集った彼らがお互いに刺激され、負けるものかと競い合うように伸びてゆくからである。カフェに集う客たちは、一杯の飲み物代さえ払えば誰もが客として対等な関係である。自分と大して変わらない、同世代の誰かが優れたことをしていれば、それは自分にだって可能なのではないかと思えてくる。彼らの姿を同じ地平で体感することでこそ、これまで不可能だと思っていたことが可能そうに思え、自身のマインドセットが変わることで、手に届かないようにみえた憧れも実現可能なものになってゆくのである。ヨーロッパのカフェの姿では現代のカフェはどのように機能しているのだろうか。ヨーロッパのほとんどのカフェは路面店であり、カフェは誰にでも開かれた半公共空間である。そこにテラスが設置され、人々が楽しそうに談笑していると、通りすがった人は自分とそう変わらない彼らの姿を目の当たりにし、彼らの楽しそうでリラックスした姿に憧れを抱く。オープンカフェは高級バーや会員制クラブと違い、場のデザインからも、ここは誰にでも開かれた空間であると街ゆく人にアピールしている。街ゆく人はその姿を覗き込み、自分の眼前にいる人たちの姿が自分の憧れに近ければ近いほど、そこに行けばいつか自分もそうなれるのではないかと思うようになる。テラスでくつろぐ姿を街にさらけ出すことは、そこは安全であり、そこに来ればあなたもこうなれる、と客自身が街ゆく人に向かって宣伝しているようなものである。オープンカフェが独特の魅力を放つのは、そこにいる人が有名人でも特殊な人でもなく、自分とそう変わらないように思えるのに、社会のコードからリラックスした時を過ごしているからであり、自分もその仲間入りをしたければ、必要なのはちょっとした勇気と思い切りだけである。オープンカフェとインフォーマル・パブリック・ライフヨーロッパではこうしたオープンカフェが、インフォーマル・パブリック・ライフ(街中で自分らしくいられる場)の質を上げるのに貢献しているといえる。広場の中にベンチだけでなく、より長時間自分の居場所として使える場が存在する。そこでゆっくりと腰を落ち着け、飲み物片手にあたりを眺めまわすことができる。聞こえてくる写真5  パリ、モンパルナスの「ロトンド」から眺める「ドーム」。両店には世界中の芸術家が集まった写真6 パリの「カフェ・ド・フロール」の夜のテラス