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造られている。ここにはカナートから直接流れ込む水が貯えられた。階段を50段ほど下りたところには貯水槽に繋がった蛇口が設けられており、人々が水を汲むことができた。蛇口はイスラーム教徒とゾロアスター教徒用に二つ設けられ、1960年まで水を供給していた。■長大なカナートと庭園ヤズドには、現在も豊富な水を送り続けている大規模なカナートがある。ダウラット・アバード・カナートと呼ばれ、支線も含めると5本のカナートからなる。総延長は70kmに達し、その延長は世界一ともいわれる。このカナートは新しいものでも200年前、古いものでは数百年以上の歴史を持つとされる。山地に水源を発したダウラット・アバード・カナートは、ふもとのメフリという町で農地や庭園を潤し、さらに砂漠地帯を北に向かい、やがてヤズド市に至る。メフリ郊外には、このカナートに沿ってパハラヴァンプール庭園と呼ばれる古い庭園がある。カナートの水が地表を小川のように流れ、ナツメヤシやザクロを育てる農地を潤す。庭園には主の住む大きな館があり、館の中にまでカナートの水が引き込まれ、客間のテーブルの下を流れている。このカナートが繋がるヤズド郊外のダウラット・アバード庭園にはヤズド一高いといわれるバードギールが見られ、上空の涼しい風を室内に供給しており、その真下の風の吹き出し口に手をかざすと、リボンを揺らすほどの勢いで吹きだし、気持ちがよい。このような水の引き込みや上空の風の採り込みは、灼熱し乾燥した砂漠の厳しい気候の中で、たくみに環境に適応したペルシア建築の環境共生技術に他ならない(図1)。■地域固有の環境共生技術イランでは、カナートや風に加え、冬場に水を凍らせ、これを保管して暑い季節に利用する、ヤフチャールと呼ばれる氷室も使われていた。冬に屋外に水を張って作った氷や、積もった雪を集めて保存しておくための施設である。日中の外気温を内側に伝えないよう、日干し煉瓦で分厚いドームの天井を造り、開口部は小さくして保温性を高め、なるべく長く氷を持たせるように工夫している。ヤズドの北にあるメイボドという町には大きいヤフチャールがある。内部は地面にすり鉢状の穴が穿たれており、ここに冬の間に屋外で作った氷を蓄える。カナート発祥の地イランは、自然の水や風を生かし、気候や風土の特性を生かした社会を形成している。カナートに加え、地表や地下の貯水槽、風採りの塔や氷室など、自然の力を生かした一連の地域固有の環境共生技術を持ち、現代風に言えば、さながら「エコシティ」を実践している。イランの環境共生技術は、冷房・暖房と多大なエネルギーを消費しながら環境を制御しようとしている現代の技術文明のあり方を顧みる良いチャンスを与えてくれる。<参考文献>1)--岡崎正孝、「カナートイランの地下水路」、論創社刊、1988年2)--Masoud Kheirabadi, Iranian Cities ? Formation and Development, SyracuseUniv.Press,2000.3)--Reza Abouei,“Conservation of Badgirs and Qanats in Yazd, Central Iran”,ConferenceonPassiveandLowEnergyArchitecture,2006.4)--山田耕治、「土木遺産の香り砂漠で水を作る魔法の技術-カナート」、ConsultantVOL.255、2012年4月号<写真提供>写真1ヤズド水博物館それ以外は筆者110564278931バードギール2リビング・ルーム3カナート4キッチン5倉庫6貯水タンク7汲み上げ井戸8中庭9貯水槽10屋根図1イランの環境住宅(出典:Masoud Kheirabadi, Iranian Citiesに加筆・修正)Civil Engineering Consultant VOL.263 April 2014047