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一般社団法人建設コンサルタンツ協会平成25年度懸賞論文「日本が元気になるための社会資本整備のあり方とは」最優秀賞論文『人間らしさを育む都市を目指して』京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻修士課程髙橋利之はじめに高度経済成長期に建設された多くの社会基盤が老朽化している今、少子高齢化による生産人口の減少とそれに伴う厳しい財政状況の今、巨大地震や地球温暖化に伴う豪雨災害などの自然災害と向き合う今、既存の社会資本の効率的な維持管理や合理的な新陳代謝の必要性は論を俟たない。しかし、これらを巡る議論の中で社会資本整備そのものが目的となってしまってはいないだろうか。社会資本整備はあくまで人々の暮らしを支え、豊かで多様な活動を支える‘手段’であり、我々の本来の目的は社会資本整備の奥にある人間と自然の関係を理解し、より人間が人間らしく生きる術を満たすことであると私は考える。つまり、社会資本整備の在り方を考えることは人間(自然)の在り方を考えることと同義であるとさえ言えるのではないだろうか。この視点のもと私が考える社会資本整備の在り方を以下に述べることとする。1社会資本整備の『風土性』人間と環境の関係社会資本整備を考える上で、まず、人間と環境の関係を無視することはできない。1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議において採択された人間環境宣言1)の冒頭には「人は環境の創造物であると同時に、環境の形成者である。環境は人間の生存を支えるとともに、知的、道徳的、社会的、精神的な成長の機会を与えている。」と書かれている。つまり、人間は成長する過程で個人の人間性を確立していくわけであるが、その多くが環境によって影響を受けるということが、高度経済成長期の末期に国際的に認められたということである。また、哲学者の和辻哲郎は著書『風土-人間学的考察-』2)の中でモンスーン気候、砂漠気候、牧場気候を設定し、世界各地域の民族・文化・社会の特質を浮き彫りにしている。環境がそこで暮らす人々の人間構造を形成していることが鋭い洞察力と天才的な詩人的直観によって精緻に述べられている。環境に大規模な変革を与える社会資本整備は、近年その効率的な維持管理方法が注目を集めているが、社会資本整備によって環境や周辺の人びとに与え得る影響も今一度考慮して行われるべきである。いや、維持管理においてこそより周辺の環境と人々を考慮し、方法や維持管理を担う主体を考えていくべきであろう。文化的景観から見る社会資本整備このように、人間と環境は切り離すことができない相互に作用し合う関係であるが、このことが大きく現れているものの一つに文化的景観がある。文化的景観とは文化財の一種であり、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」3)と定義されている。日本は地形や気候に富んでおり、場所によって大きく風土は異なる。この風土に適した生活様式や防災手法が先人の経験則によって蓄積され、風景として現れているものが文化的景観である。滋賀県高島市針江の集落では湧水を利用したカバタと呼ばれる洗い場が多くの家庭に存在している。カバタの水は集落内の水路を流れて水田や琵琶湖へと流れるため、水の使用には住民間で暗黙の規則が共有されてお図1針江のカバタCivil Engineering Consultant VOL.263 April 2014073