ブックタイトルConsultant_263

ページ
76/88

このページは Consultant_263 の電子ブックに掲載されている76ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant_263

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant_263

り、湧水点は地域住民によって維持管理されている。また、利根川と渡良瀬川の合流点に位置する群馬県板倉町では自然堤防上の一画に土盛りをし、その上に水塚と呼ばれる避難用建物が築造されている。屋敷地の北西には自然堤防の環境に適した郷土種や水防に有効なタケ類が植栽されており、防風屋敷林として機能している。現代のように科学技術が進歩していない時代では、土地の風土に適した社会資本が住民の手によって整備され、維持管理されてきた。厳しい財政状況と種々の自然災害に直面しているいま、これらの経験則を社会資本整備に応用することが必要ではないだろうか。社会構造や生活様式が変化した現在、これらの文化的景観は失われ始めており、長い年月によって蓄積されてきた先人の知恵は忘れ去られようとしている。記憶の継承を社会資本によって担うことが今後の課題となるのではないだろうか。場所の多様性と人の多様性冒頭で人間は環境と深い関係があることを述べたが、場所の多様性が人の多様性と深く関係していると私は考えている。(ここでは、環境だけでなく歴史や文化的な背景も含むため、環境を場所と言い換えることとする。)戦災復興、高度経済成長期に整備された画一的な社会資本は地域のアイデンティティを奪っていった。現在多くのまちで活性化を目指した取り組みが行われているが、活性化の核として位置づけられる代表的なものに、その土地の景観や歴史、文化などが挙げられる。しかし、アイデンティティを奪われた地域では活性化の核となるものから探さなければならない。最悪の場合は核となるものがない場合や、あったとしてもあまりに貧弱なため活性化が失敗に終わることもある。比較的規模の大きい社会資本整備は一歩間違えれば、その土地の場所性を奪うことに繋がりかねない。場所の多様性を保全若しくは創造する社会資本を整備することが今後益々重要になってくると感じる。場所の多様性は人の多様性である。人の多様性は活動の多様性であり、活動の多様性は活力の多様性の表象である。つまり、この活力の多様性の基となる場所の多様性及び人の多様性を意識して社会資本を整備・維持管理することが日本を元気にするのではないだろうか。2社会資本整備の『格』都市・空間の格日本には伝統的な空間構成原理として真・行・草の考え方がある。対象とする空間の格や象徴化の度合いに応じて要素の形を変化させる方法であり、日本庭園によく見受けられる4)。都市には家の玄関に相当する駅や空港、リビングに相当する広場や公園、寝室に相当する住宅街といった様々な領域が混在しているように感じる。そしてこれらの領域には真・行・草に類似した格が存在しているように思われる。このような領域や格が生じる原因の一考察は次節で述べることとするが、この領域や格に応じた社会資本の整備が必要だと私は考える。昨年の景観・デザイン研究発表会で行われた発表の中で、伊万里市の河川整備を計画しており、住民にもっと綺麗な川ができると説明したところ、住民からは「こんなに綺麗な川が既にあるではないか」とどこにでもあるようなコンクリート三面張りの川を自身満々に見せられ、今後どうしたらいいか分からなくなったという話があった。このような問題もその地域や空間の格を考慮すれば自ずと答えが見つかるように感じる。つまり、厳しい財政状況の中ではどこに予算を使うかが一つの大きな課題となってくるが、都市や空間の格に応じた社会資本整備を行うことで、予算の無駄遣いを減らすことができると思われるのである。効率的な社会資本整備を行うためには、この『格』を意識していく必要があるのではないだろうか。人間の欲求と都市このように、都市や空間には『格』が存在するわけであるが、ここではこの『格』が生じる一考察を示すとともに、より『格』の考え方を深めていくこととする。人間性心理学についてよく知られているものにマズローの欲求階層説が挙げられる。簡単にまとめると、人間の欲求の段階は下から生理的欲求、安全の欲求、親和の欲求、自我の欲求、自己実現の欲求に分けられ、底辺から各欲求が満たされると一つ上の欲求を志すというものである。この各欲求が風景に現れていると私は強く感じるのである。例えば、住宅街は最も下の欲求である生理的欲求が現れている空間であり、東京の丸の内などは自己実現や自我の欲求が強く現れている空間であるように感じる。人間の欲求が風景に現れるというのはいささか納得しにくい面があるように感じるが、それは事実であると私は感じる。なぜなら人には自由に動かせる四肢があり、考えたことや感じたことをそのまま空間に再現できる術を持っているからである。その証拠に科学技術を進歩させ、大きく風景を変化させてきたのは、より074Civil Engineering Consultant VOL.263 April 2014