ブックタイトルConsultant_263

ページ
77/88

このページは Consultant_263 の電子ブックに掲載されている77ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant_263

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant_263

自己実現の欲求自我の欲求親和の欲求安全・安定の欲求生理的欲求図2人間の欲求と景観の関係の概念図(筆者作成)良い社会を目指して幾度もの挫折を繰り返しながらもあきらめずに努力し続けた技術者たる人間に他ならないではないか。さらに、人間が風景を変革するだけではなく、風景が人間を変化させることもあり得ると私は考えている。それは、冒頭の人間と環境の関係の重複になるが、人間は情報の83%を視覚から取り込んでいるということが明らかになっている5)。つまり、人間は身を取り巻く環境の情報の大部分を視覚的に得ているということである。言い換えると、環境の眺めである景観は人間性を左右する重要な要素であるということである。何が言いたいかというと、景観の多様性は人間性の多様性であり、人間性の多様性、つまり人間らしさを育むためには風景の多様性を意識して社会資本整備を行う必要があるということである。人間性の格、風景の格に応じて社会資本は整備されるべきである。なぜなら、それが近代化によって画一化してきたわが国において、日本のアイデンティティを守り育むことに繋がると私は考えるからである。日本が元気になるためには、多様な場所、多様な景観、多様な人々が必要不可欠である。そして、私にはこれらの多様な場所の格、景観の格、人間の格に応じた『社会資本整備の格』が存在しているように思えてならないのである。一章、二章では社会資本整備の『風土性』と『格』について論じ、私が考えている都市と社会資本の関係の概念を示した。『風土性』では経験によって蓄積された先人の知恵を活かし、風土に適した社会資本を整備することの必要性、場所の多様性が人の多様性に繋がるが故に社会資本に風土性を持たせ、没場所化を防ぐ必要性を述べた。また、『格』では、人の欲求が都市を形作っており、都市内には様々な領域に応じて格が存在し、これらの格に応じて社会資本整備を行うことが必要であることを述べた。前述では今後の社会資本整備の在り方に対する具体的な提案は述べてはいない。そこで、次章ではこれらの考え方の基、日本が元気になるための社会資本整備の具( )体的な在り方を幾つか提案したい。3今後の社会資本整備の在り方に対する提案提案1先人の知恵の蓄積と応用一章の社会資本整備の『風土性』で少し触れたが、多様な地形や気候が存在する日本では、その地域特有の風土に適した技術や知恵が先人の経験則によって蓄積されている。万事において科学的根拠がその力を強力に発揮している現代において、民俗学や歴史学といった社会科学や人文科学に光を当てることが重要だと考えられる。近年は東日本大震災によって日本各地の災害伝承6)が注目を集めているが、災害だけではなく生活全般の伝承記録や、先人の知恵にももっと日の目を当てていくべきである。科学は多くの失敗や努力の結果出来上がったものであり、言わば経験則の一種である。そして科学技術が大きく発展したのはたかだかここ100年の間である7)。それに比べ、文化的景観に見られる先人の知恵は科学技術の発展よりもはるかに長い数百年もの間その地域の風土に合わせて形成されてきたものであり、本来科学的根拠よりも重要視されるべきものであると個人的には感じるのである。(もちろん科学技術を否定しているわけではない。)このような思いも加わり私は社会資本整備に先人の知恵を活かしていくことが、地球温暖化やそれに伴う自然災害の多発といった科学では対処しきれない状況が発生する可能性があるいま、ますます必要になってくると思われるのである。では、一体どうやって社会資本整備に応用していくのかという声が聞こえてきそうなので、ここで具体的な提案を行いたいと思う。近年では昔に比べて社会資本が計画や設計の段階においてその地域の風土を考慮して造られているものが多くなってきている。しかし、維持管理の段階ではまだまだ、その地域の風土や先人の知恵を応用している図3白川郷の合掌造りCivil Engineering Consultant VOL.263 April 2014075