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前回のオリンピックの時の社会は経済成長一辺倒で、とにかく都市を機能的・効率的に、いかに拡大して活性化させようかという時代でした。しかしいま、成熟社会を迎えたといえる東京では人口が減少するなかで、どうやってうまく都市を縮小するかを考えていかなければならない時代です。施設・建築・土木・公共インフラすべてにおいて、どういう形で「美しい国づくり」を進めて、社会資本をどうやって整備し維持管理していくのか、おそらく大きな転換点に来ています。ですから前回のオリンピックの時とは少し違った考え方が出てきて、美しい日本としての次のステップに入っていくのだと思います。ひとつの例として、2012年のロンドンオリンピックがあります。ロンドンは、その前のオリンピック開催地であった北京のようにこれから拡大する都市ではありません。競技場なども仮設にしておくなど、設備投資を非常にコンパクトに抑えて、既存の施設を有効に使い、オリンピックが終わったあともその都市がうまく動くように考えられていました。成熟した都市でのオリンピックの成功例と言われています。ですから、東京も北京型ではなくて、ロンドン型オリンピックの知恵を学ぶ必要があるのではないでしょうか。ロンドンオリンピックが成功した理由のひとつに、イギリスに以前からあるCABE(Commission forArchitecture and the Built Environment:英国建築都市環境委員会)という組織のはたらきがあります。CABEは既存の地域の現状を分析し、市民にわかりやすく情報を公開しながら、開発による影響をチェックするなどの活躍をしています。私たちJIAはCABEについても、いま一所懸命に勉強しています。CABEの正式名称の中の“Built Environment”に相当する言葉が日本語にありません。直訳すれば人間構築環境となるのでしょうが、「美しい国づくり」「美しいまちづくり」「美しい建築づくり」などいろいろ言い方はありますが、ちょうど良い言葉がないのです。ところがイギリスには“Built Environment”という概念がちゃんとあります。僕らもこれを学んで、建築・都市・土木も含めて、これが“Built Environment”なのだと確認し、ぜひ手を握って「美しい“Built Environment”づくり」をやりたいと思います。明治維新の時に、“Architecture”や“Environment”を「建築」や「環境」という日本語に苦労して翻訳しました。ですから、2020年に向けて“Built Environment”という言葉を適切な日本語に訳して、その概念を一般の方々にも分かるような言葉で発信できないかと思っています。「みんなで頑張りましょうよ」と、多くの人が分かるような言葉にしたいのです。美しい東京とは――日本に来る多くの外国人が「東京は美しい」と言うそうです。以前シンポジウムである人が、「ゴミが落ちていないことや、泥棒がいないことが美しい街だと勘違いされているのではないか」と言いましたが、まさしく、建築も土木も街並みとしての美しさをつくっていくことが大事なのかもしれません。芦原僕もこの前本を読んでいたら、江戸末期から明治初期に日本に来た外国人は、東京がいかに美しい街か、みんな驚いたというのです。そこにいる人々も、みんな貧しくても清潔にしていて礼儀正しいし、ちゃんと規律を守っている。こんなすばらしい国があるだろうか。そこを西洋のいろいろな文明で毒してしまって果たしてよいのだろうかと、当時の外国人たちは考えたという内容でした。しかしいまから、昔のように木造の小さい建物がたくさん並んでいるような東京に戻すわけにはいきません。ではこの東京の街は実際に美しいのでしょうか。僕ら建築家が、いわゆる街並みという意味で考えると、パリの整然とした街並みに比べたら、東京は秩序がない、色や形もいろいろ、これはちょっと恥ずかしい街だと思ってしまいます。私の父・芦原義信の本『街並みの美学』の中でも東京は、見た目に秩序のない街だと述べています。ところが、外国人の中には「東京は面白いのではないか」と言う人もいます。東南アジアのカオスの中は、いろいろなもののエネルギーであふれていて、逆に言うと何でもいろんなことが自由にできて、活気あふれる街であり、「なかなか魅力的じゃないか」という見方もあるのです。そうなると、何が本当に美しいのだろうか、考えなければいけません。大島私は「美しい」とは文化や個性だと思います。そこの区域や空間の中で、何か訴えるものがあればいいのだと私は思います。最近の街並みはなんとなく散漫な感じがして、同じようなものがただズラッと並んでいるだけのような気がします。だからといって、個性があるからいいとも一概には言えませんが…。個性的なものが出てきた時は、それに合った街並みになればいいのではないでしょうか。ただ、そこはある程度住民の皆さんの合意が必要だと思います。そして、一番大事なことは、住民の皆さんが参加することだと思います。Civil Engineering Consultant VOL.264 July 2014055