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特集都市と公園?これからの公園に求められる能力?1都市の公園に求められる役割?「作る人」と「使う人」の断絶を越えて?石川初ISHIKAWA Hajime株式会社ランドスケープデザイン本社設計部/デザインリーダー都市で生活する私たちの息抜きや遊びの場である公園。そもそも公園とは何をする場所?誰のもの?公園の成り立ちとは?公園の歴史や現在の課題・ニーズを踏まえ、都市の公園に求められる役割とは。都市のリビングルーム「公園は都市のリビングルーム」というキャッチコピーを見つけた。東京都公園協会のウェブサイトのトップページに掲げられている。なるほど、これは面白い言い当てだ。家の中で、リビングルームは何かの機能に特化した部屋ではないが、それがあることで住まいが豊かになるような空間である。私たちはキッチンやバスルームやクローゼットには用事があって入って行くが、リビングにはあまりそういう「足す用」がない。あるいはまた、誰かが入っているトイレや風呂のドアを開けてむやみに入って行くことはできないが、リビングルームにはそういう排他性がなく、誰でもいつでもふらりと入って行くことができる。こういう緩さが公園らしいというわけだ。都市で私たちは、限られた人しか入ることができない場所や、限られた行為だけが許された場所に囲まれている。他人の敷地に勝手に入って行くことはできないし、道路で遊んだり寝たりしてはいけない。あらゆる土地に特定の意味や機能が課され、隙間なく「何かをするところ」に決められているのが都市というものだ。そんな中で、いろんな目的や意味からひとまず解放されて、誰でもいつでも入って来て、なんとなく過ごすことができるのが公園である。私たちは公園に来て、座って休んだり散歩をしたりする。そうやって息抜きをしたのちに、また都市に戻って行く。公園は「オフ」の場所を提供することで、都市の「オン」を支えているのである。公園の始まり日本で公園がいつどのように始まったのかは、歴史的にはっきりしている。1873(明治6)年のことだ。この年だじょうかんふたつに公布された『太政官布達第16号』という法令に「公園」という言葉が登場した。この法令は、全国の府県にむけて「これから公園という制度を発足させるので、それに相応しい場所を申し出よ」という趣旨のお達しである。これに応えて東京府からは上野の寛永寺や芝の増上寺、飛鳥山や浅草寺といった場所が伺い出され、これらが日本初の公園となった。明治維新後、ヨーロッパに倣った都市の近代化の一環として設けられた「公園」が、実は伝統的な寺社の境内地などの転用で誕生した、というのはなかなか興味深い。公園の始まりは既にあった賑わいの場所を「公園」と呼ぶことだったのである。もっとも、この法令には別な思惑があって、それまで所有区分が曖昧だった寺社の境内地を地租改正によって「税金が取れる土地」にするために、一旦公園に指定して官有地としたうえで寺社に経営させて納税させる、というのが狙いでもあったらしい。しかしなお、ここに公園の本質をいくつか見出すことができる。ひとつは、公園は制度であるということだ。寺社の境内は公園として設計されたものではなかったが、そこを公園とするというルールが設定されることで公園になったわけだ。もうひとつは、公園という形式がもたらされる以前から、公園のような場所や使われ方は、異なる形で都市に存在していたということだ。公園は、公園という形式を持った施設である以前に、人々が訪れ集い、賑わいが生まれるというような「公園的な出来事」であり、それを支える「公園的な場所」なのだった。006Civil Engineering Consultant VOL.264 July 2014