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図5気球で山を持ち上げての干拓事業図6人工太陽による広域照明水、海浪、瀑布、気流若くは太陽熱等を利用し、熱力を起して石炭に代用するの術を得るの望みありとの説あり。将来、物理学化学の進歩によりて遂に能く此偉業をなすに至らば吾人の幸福此上はあらざるべし〉炭鉱開発がはじまったばかりの日本で、すでに資源の枯渇を危惧し、水力(潮力)発電や太陽光発電などの代替エネルギーについて考えている学者(しかも法学者)がいたかと思うと愉快だ。また食糧危機も心配している。人口増加による農産物の限界は既に目前まで迫っていると危惧し、品種改良によって陸上での農作物の増産に努めるのが急務だとし、それにも限界があるだろうから、水産資源の養殖「海洋牧場」を提案している。さらに住宅問題も心配し、〈大洋海中に住居の出来得べきことにあらざれば是亦限りあるは勿論なれども併し幾分か陸上住地の欠乏を補ふの効なきに非さるべし〉と述べているのである。海底都市の建設だ。人類最大のミッションは恒星間移民しかしなんといってもすごいのは、加藤が太陽系外の惑星への飛行を、人類生き残りのためのミッションに挙げていることだ。加藤はやがて太陽系の寿命が尽き、地球という惑星の寿命が尽きてしまうという遥か未来の事態まで心配している。加藤によると〈千万年か若くは二千万年の後に至り、天文―物理的に(地球が)滅亡に帰すべしとの学説に至りては明々白々敢えて疑うべからざるもの〉だという。その上で加藤は、地球は人類発生の原因だが、しかし人類は地球の衰亡とともに滅ぶべきではないとする。〈地球と人類とは決して永遠離るべからざる関係を有するものにはあらず〉と。では、どうすればいいというのか。〈此地球の滅亡より数億万年の後にも他の或る天体には必ず生ずべきことなるべければ、この地球の人類即ち吾人が今より千七百万年乃至二千万年の後若くは更に早く全く滅亡に帰することあるも吾が同胞は此宇宙間何れの天体に乎、必ず生存して永遠全く滅亡するの期はあらざるべしと思はるるなり〉加藤は、人類(特に己が同胞である日本人)の二千万年後の生き残りについて心配していた。そして彼は、日本人が生き残るためには、母なる地球を捨てることも辞さないとする。残念ながら、別の恒星系の惑星に移民する方法までは明示されていないが、精神論ではなく科学技術による問題解決を唱えていることはとても重要だ。「想像し得るものは、実現し得る」と言ったのは、ジュール・ヴェルヌだった。宇宙旅行を語った作家や科学者は多いが、加藤弘之のように切迫感をもってその必要性を語った人間はいなかった。地球滅亡の先まで人類の生き残りを心配する加藤にとって、日本の近代化を推し進める国家百年の計などは、きわめて具体的で目先の問題だっただろう。こうしたダイナミックで原理的思考が、明治日本の奇跡的な成長の根幹にあった。<図提供>図1、2ヴェルヌ『月世界旅行』図3、4ロビダ『第20世紀』図5、6貫名駿一『星世界旅行』Civil Engineering Consultant VOL.265 October 2014009