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特集煉瓦煉瓦の魅力誰しも子供のころ、積み木で遊んだ記憶があると思う。木製の積み木であれLEGOブロックであれ、何かを組み積み重ねていくという遊びに夢中になった体験は、幼心の記憶の片隅に残っているはずだ。ただ私の場合は、その積み木が直方体の焼き固まった土の塊、つまり煉瓦であった。代々煉瓦職人を継承している当家では、家のあちらこちらに煉瓦が転がっており、子供にはやや大きく重いその直方体を両手で持ち上げ、積み木がわりに遊んでいた。煉瓦職人になった今でも多様多種な積み方に挑戦し、夢中になって煉瓦を積んでいる自分は幼少期のころと何ら変わってないように思える。様々なデザインを造り出す事が可能なこの素材は、常に私を夢中にさせてくれる。そんな私に向かって、父がよくかけていた言葉が「重さを味方にしろ。重力に逆らうな」だ。当然、幼少の私には最初何を言われているのかサッパリ分からなかったが、積み重ねていくうちに重さ、つまり重力というものへの感覚を子供ながらに掴めた事を、今でも鮮明に覚えている。煉瓦という積み木を交互に重ねていくことにより頑丈になり、上の積み木から伝わる重みと厚さによって安定し、多様な積み方が可能になることを知った。そういった幼少期を過ごしてきたせいか、職人となった現在でも、煉瓦積みや石積み等しっかりと大地に足を据えて立ち上がっている素材をみると妙に安心感をもつ。逆にタイルやパネル等、壁にしがみついている素材をみるとどうしても落ち着かない。ロッククライミングのように岩に力一杯へばり付いているわけだから、力尽きてしまうと落下という結末が待っている。こうして普通に立っていられるのも重力があるからであり、その重力に逆らう限りはいつか限界がやってくる。昨今、わが国の建築素材をみていると厚く重いものを遠ざけ、薄く軽いものが主流となっている。地震大国と経済活動からはそうならざるを得ない事は理解出来るが、もう少し重力という原理原則に従い、厚く重い物への魅力を探ってほしい。煉瓦も齢をとっていくが、故意に取り壊されない限り、煉瓦は我々人間より遥かに長寿命だと言える。現存している明治初期の多くの煉瓦建築や土木構造物が、これからも存在し続けることは想像に難くない。古い煉瓦構造物は、経年変化による汚れやくすみで新築当時の体裁は成していないが、その劣化さえも味方につけ、煉瓦ならではの重厚感と風格を醸し出している。この風格は、長い時に磨かれてこそ現れてくるものであるが、人間の齢のとり方によく似ている。山や森、緑のなかに美しく映え、都会のコンクリートジャングルの中でも凛として立ち続ける煉瓦建築・構造物は、見る人の五感を刺激し、安らぎや温もりを与え続けているように思えてならない。煉瓦のように自然と時が手を加え、時代を重ねるにつれて風格や深い味わいが現れてくる素材はそうそう無い。010Civil Engineering Consultant VOL.269 October 2015