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写真2琵琶湖の水を京都市内へと運ぶ水路閣躍起になったりもした。その後様々な専門家に出会い、煉瓦の製造方法の変化や建築の工法・構造の変遷を知ることで、かつてのような色むら・幅を持つ個性のある煉瓦が現代では「製品」として成り立たない・成り立ちにくいこと、工期やコストに見合わせることが難しくなりつつあること等を知るようになり、新しいプロジェクトに旧来の煉瓦の色合い・風合いをいたずらに求める衝動は次第に薄らいで行った。現在ではもう少し別の視点から新しい煉瓦の居場所を考え、実践に繋がる様な仕組みを構築して行くことが必要だと考えている。じる。もちろん伝統的な工法の新しい木造住宅も建設されているし、煉瓦や質感豊かなせっき質のタイルを用いたオフィスビルや集合住宅等も数多くあるが、周囲の環境が極端に高明度化(明るくなる現象)したり、無機質なマテリアルのみで構成されている中にあると、どうにも肩身が狭そうに感じてしまう。なぜ煉瓦に惹かれるのか一方、建築・土木の専門家と協働する機会の多い私の周囲には、煉瓦造りの建造物の文化的な側面や価値を評価し、敬意や愛着を持つ人は多い。京都南禅寺の水路閣などは、その代表例であろう。煉瓦を好む理由は人それぞれであろうが、私の場合、ひとえにその「色合い」である。「どうしてこんなに多様なのにまとまりがあるのか」、あるいは「人工物でありながら自然にここまで溶け込んで見えるのは何故なのか」等ということが気になって仕方がない。一時期はそうした素材が持つ色を丁寧に色票化することにより「むら」の程度や「色幅」の範囲を定義することはできないかと煉瓦にふさわしい居場所を風景から考えてみる例えば私達は山や海・川を眺める時、あるいは煌めくビル群の夜景を眺める時、自然に眺望のよい場所を探そうとする。対象と少し距離を置いた眺めからは木々の緑の濃淡、水の表面の揺らぎや全体の大きなうねり、光の集積を捉えることができ、全体を眺めることにより微細な色の変化やその階調を見て取ることができる。そして、対象に徐々に近づいて行くと素材のテクスチャーに眼が行くようになる。近づいて初めてわかる、色むらや細かな陰影。煉瓦をはじめゆらぎのあるマテリアルの良さは、こうした距離の変化と呼応できる点にあるのではないだろうか。ガラスや金属等、フラットで均質なマテリアルで覆われた都市のビル群の近景・近接景は遠景で見た時のそれと驚くほど差違が感じられないことも多い。あくまで色彩の観点だが、粒子の集積(土を練って焼成したもの)である煉瓦の目地まで含めた「色の特性」が活きる使い方をすることが、煉瓦にとってふさわしい居場所となるのではないだろうか。例えば長い距離写真3、4スリランカの大地、緑、空とその土地の煉瓦Civil Engineering Consultant VOL.269 October 2015027