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の沐浴場が発掘され、当時の姿を今に伝えているが、岩山に向かって左半分の側は敢えて手は加えず、右半分の側のみ崩れてしまった部分の補修や復元が行われていた。空間が損なわれても素材は残り、歴史や文化の証人となっている。どこの国や地域にもある素朴なマテリアル、煉瓦。国ごとに寸法が微妙に異なるのは、人が手に持って積んでいくために持ちやすい大きさが基準となっているからだという。素朴さの中にも国ごと・地域ごとに扱いやすいよう、そして気候や災害にも耐えられるよう様々な工夫がなされ、進化もしてきている。日本の煉瓦の歴史は世界と比べるとまだ浅いが、その時々で設計者や職人が工夫を凝らし、美しく「積む」ことに拘ってもきた。こうした先人たちの経験とその蓄積にきちんと目を向けることが、歴史に対する信頼(=人類の拠り所)ということなのではないかと考えている。新しい煉瓦の居場所の創造に向けてまちなみの色彩が豊かで、そして調和のとれた状態が構築されるために、色彩の専門家として私ができること・すべきことを常々考えている。端的に表すと色彩論を活用した定義として「絵に描きたくなる(あるいは写真に撮りたくなる)ような風景を育てていくために風景全体で配色のバランスを取るべし」ということになるが、煉瓦(色)の場合は対象となる建築や地域に対し向き・不向きはもちろんあるし、厳格な精度が要求される構造物にも通じにくいことは重々理解している。また、私がそういう設計をできるわけではないので、そうなると残るは他力本願である。例えば自分より若い世代が、とにかく実際に素材に触れること・その成り立ちを知ること。そうした機会を増やしていきたいと思い、2012年2月に素材色彩研究会MATECO(環境を取り巻く素材や色彩に関する自主研究・勉強会)を設立し、タイル工場の見学会や煉瓦積職人に話を聞く会等を主催している3)。また、所属しているNPO法人GSデザイン会議内に設立した素材色彩分科会では、2014年に竣工した上州富岡駅の建設途中の現場にて煉瓦積の見学会等を企画・運営を行い、これらの活動をアーカイブしていくことを続けている4)。〇〇愛好家という立場に強い憧れも持つが、煉瓦に関しては自己内で完結させてしま写真9 GS素材色彩分科会で開催した上州富岡駅の煉瓦積現場見学会(2013年11月)ってはあまりにも勿体ない、という思いがある。ランクロ氏が日本の色彩文化に触発され、緻密で客観的なリサーチという手法で開花させた「色彩の地理学R」という思考には、未だに学ぶこと・学ぶべきことが数多くある。日本の煉瓦も長崎、横浜、そして新しいところでは上州富岡駅と歴史や地域の状況・特性に応じ発展・進化してきたし、これからの発展の速度は急速ではないかもしれないが、それでも時代と共に変わり続けて行くことであろう。良いものをつくる、そしてそれを継承していくためには様々な物事の決定を迫られる。その時、少なくともここから前後50年というスケールを強く意識することがこれから益々重要になるのではないか、と考えている。<参考文献等>1)カースタイリング別冊/色彩の地理学三栄書房1989年2)色彩論(ちくま学芸文庫)木村直司訳2001年3)素材色彩研究会MATECO(http://matecosoiro.tumblr.com/)4)GS素材色彩分科会(https://ja-jp.facebook.com/gs.material.color)写真10 素材色彩研究会MATECOで開催している連続セミナーの資料(煉瓦職人・高山登志彦氏とマテリアルディレクター・田村柚香里氏の対談形式のレクチャー)Civil Engineering Consultant VOL.269 October 2015029