ブックタイトルConsultant269

ページ
4/64

このページは Consultant269 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant269

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant269

土木遺産特別企画鼎談吉村作治/樺山紘一/深見奈緒子文明の変遷を支えた人と技術人類は古来より、その時代で最高の技術と労力を注ぎ、文明を支える様々な土木施設を造ってきた。その中には、人々に愛され、大切にされながら世紀を超えて今もなお使い続けられる歴史的価値の高い建造物も少なくない。そこには後世の私たちが学ぶべき先人の叡智が集約されている。本誌では、そのような建造物を「土木遺産」と命名し、永年に渡って国内や海外の土木遺産を直接取材し紹介してきた。その間で社会情勢や環境などが大きく変化し、土木施設に対する価値観や社会的意義も変化してきている今、私たちは一度原点に立ち帰り、土木遺産の意義を見つめ直すための契機として本鼎談を企画した。本鼎談では、エジプトに発した古代文明が、ギリシャ、ローマ、そしてヘレニズムへと広がり、さらにそのあとに発展したビザンチンやイスラム、そしてルネサンスへと結びつく文明の変遷を追いながら、その背後を支えた人と技術に着目して議論していく。その中から、土木遺産の読み説き方や現代的な意味を考えていきたい。■古代エジプト文明を支えたナイル川司会─世界の四大文明はすべて川沿いに起こっています。「文明と水」という関わり合いを示しているように思いますが、そのような見方でよろしいでしょうか。吉村─文明は人間がつくり、生きるには食べ物と水が必要なので、当然、川の近くになります。ナイル川の場合は1年に1回、4カ月間氾濫します。人間は少し小高い場所に住んでいましたが、だんだん住みやすい川の近くに降りてきました。エジプト文明のすごさは能力の高い人間が住み着き、能力の低い人間は淘汰されたことです。普通は優れた人間が追い出されていくものですが、ナイルでは逆だったと考えられます。司会─当然、ギザの三大ピラミッドのような大きなものを造るには、国の力が強大であったわけですよね。吉村─そうです。でも大きな土木工事ができるようになったのには、突如として文明が繁栄するような、何らかの突発的な契機があったと思います。写真1ジェセル王の階段ピラミッド(エジプト、写真2真正三大ピラミッド(エジプト、ギザ)サッカラ)そこに突拍子もない人が出て来る─それが第3王朝のジェセル王時代のイムヘテプだと思います。メソポタミアのシュメールからの渡来人です。シュメールではジッグラト(日干し煉瓦を積み上げた聖塔)が既にあったので、そのデザインを利用して階段ピラミッドを造ったと考せいしんえるのが一番自然です。その時代、星辰信仰で北極星を崇めていました。イムヘテプがオリエントから、つまり北から来たので北極星を信仰していました。そのため、階段ピラミッドの神殿は北側にあります。第4王朝のクフ王時代には、太陽信仰の地ヘリオポリスで真正ピラミッドが考えられました。だから階段ピラミッドと真正ピラミッドは、基本的に物の考え方が違います。高さも階段ピラミッドが60mに対して、真正ピラミッドが147mと規模も大きく違います。司会─古代エジプト文明は約3,000年と、他に類を見ないような長寿ですが、その秘訣は何でしょうか。吉村─一つは、地勢的な理由だと思います。頻繁に人が行き来する場所では、絶えず争いがあります。それは中央文化ベルト帯、つまりシルクロードですが、エジプトはそこから外れています。そういう面で、争乱が非常に起こりにくいのです。もう一つは、エジプト文明を支えたのは農民なので、非常に穏やかです。それを「面的国家」と呼んでいます。メソポタミアやギリシャは都市国家002Civil Engineering Consultant VOL.269 October 2015