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土木遺産特別企画1941年東京都生まれ。印刷博物館館長、東京大学名誉教授。1965年、東京大学文学部卒業。東京大学文学部教授、国立西洋美術館長などを経て2005年から現職。2 0 0 5年、紫綬褒章。専門は西洋中世史、西洋文化史。おもな著作は『異境の発見』『地中海、人と町の肖像』『ルネサンスと地中海』『歴史のなかのからだ』『西洋学事始』『歴史の歴史』『ヨーロッパ近代文明の曙描かれたオランダ黄金世紀』など。樺山紘一(KABAYAMA Koichi)う一神教の思想を、ユダヤ教、キリスト教から引き継いだのがイスラム教でした。ムハンマドの頃の建築はナツメヤシや日干し煉瓦で建っていたのでほとんど何も残っていません。一番古いイスラム建築は694年の岩のドームだといわれています。古代地中海文明の遺産をそのまま借りて造ったような形だと思います。司会─ヨーロッパの都市計画の教科書では、ギリシャ・ローマの都市の次はルネサンスです。ルネサンスへの過渡期に、ビザンチンやイスラムが活発に都市を造っていましたが、あまりその部分は書かれていません。樺山─歴史的教養が足りないと思います。私たち歴史家にも責任があり、きちんと言わなかったものだから、残念な教養が定着してしまいました。深見─イスラムの都市は迷宮のようだといわれますが、そんな都市ばかりではありません。ダマスカスもそうですし、イスラム軍が造ったミスル(軍営都市)─例えばレバノンのアンジャール、あるいはイラクのクーファも、もともとはカルド(南北の大通り)とデクマヌス(東西の大通り)がある四分都市です。真ん中にモスクが建てられています。そうした街がいわゆるイスラム都市になっていったのは、イスラムの寄進であるワクフ(事業)というシステムが関わってきてからです。都市全体を俯瞰して考える都市計画ではなく、拠点的に開発して町を成り立たせていくシステムです。だから迷宮状の都市ができるのです。中世ヨーロッパの都市とイスラムの都市では真ん中に建っているものが違うだけで、敵から守ることや水の有効利用のために市壁で囲む点は一貫して同じです。人口ちゅうみつが増え、稠密になるにしたがい複雑な土地所有になり、それにワクフ開発が重なって迷宮状の都市ができたのだと思います。樺山─そういう意味では、イスラム世界でもビザンチン世界でも、もしくはキリスト教中世でも、都市は原則的には同じ理由と同じ発想から造られたと考えてよいと思います。地中海世界はよく似ています。■歴史のなかの都市吉村─古代エジプトの場合は、真ん中に神殿ができ、その周りに商家が建ち、さらにその周りに軍人が住み、あとは野っ原で農民が暮らしています。オリエントやギリシャでは壁を造りますが、古代エジプトでは造りません。壁が無くても住み分けています。それができた理由は、攻めて来る人たちがあまりいなかったからです。深見─直線的なグリッド状に造られる都市がありますが、それは植民都市だったり、新しく造る軍営都市だったりで、長く営まれて次第に大きくなった都市では、碁盤目状の都市はありませんね。樺山─膨大な数の都市がありますが、ほとんどの都市は、グリッドで構成されたような計画的なものではありません。社会とは自然発生的なものなので、基本的には幾何学的な構成ではないものができるものだと思います。吉村─エジプトでは都市の上に都市ができていて、人が住む場所はずっと積み重ねられています。そのため、多くの都市では発掘ができません。でも私はそれが都市だと思います。■ピラミッドをどうやって造ったか司会─あれだけ大きなピラミッドをどうやって造ったのでしょうか。大きな石はどこからどうやって持ってきたのでしょうか。吉村─ピラミッドは大きな石だけではなく、小さい石も使っています。難しく考える必要はなく、石切り場から石を切り、運び、積む、この3つしかありません。石は下を切ってから横を切ると、ストンと落ちます。岩盤から石を切り出すのは青銅です。そしてピラミッドを建てる場所で成形します。運ぶのはそりです。『ジェフティヘテプの巨像の運搬図』にそりが描かれています。溝に油や牛乳を流し摩擦係数を下げると簡単に引けます。私は現地で実験しました。実験考古学はすごく大事です。何人で石を運べるかとなると、現代人が100人だとしたら、古代人は50人でしょうね。この50人の差は宗教心です、私はそう思っています。古代エジプトは冬が無く、春と夏と秋が各4カ月の3シーズンです。船で石を運ぶのはナイル川が氾濫した夏ですが、私は一年中通して作業をしていた記録を見つけました。そうでないと、25年であの大きさのものは造れませんからね。004Civil Engineering Consultant VOL.269 October 2015