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トイレを建設するときには手洗いやトイレの掃除も含めた啓発教育を合わせて実施することも多いが、援助国側がトイレを建設しても習慣に合っていなければ使われないこともあり、トイレ建設が物置建設になることもある。写真1トリガリングCLTS写真2東ティモールのCLTSで作られたトイレ屋外排泄を減らすCLTSとは地元の生活習慣や個人の志向にあったものでないとまったく定着しない、利用されないのがトイレに関する協力の特徴である。そのような中で、屋外排泄が一般的な国や地域で、UNICEFが用いる手法が前述した「コミュニティ主導全村環境衛生活動(CLTS)」というプログラムである。筆者は、2012年、東ティモールでUNICEFおよび東ティモール医療友の会(AFMET 3))の協力を得てCLTSについて調査を行った。CLTSは、まず村人や生徒を集めてワークショップ形式で現状を知る、というトリガリングという活動から開始する(写真1)。屋外排泄ではなく、トイレを利用したほうがどうしてよいのか、ゲームやカードを使って理解を深めたのち、参加者で村の地図を作成する、あるいは直接村を歩く。人糞を見つけたら黄色い粉などで目印をつけ、同時に地図の上にも印をつけて、村にはこんなに人糞がたくさんあり、外からのお客さんが来たら恥ずかしい事だ、ということを話し合う。村を歩かない場合は、参加者が、自分はたいていこのあたりで用を足している、という場所を地図上に印をつける。たいてい地図は黄色い印で一杯になっていく。その後、トイレを作りたい、という参加者が出てきたら、AFMETスタッフが地元に適したトイレの作り方を自宅まで出向いて教える(写真2)。しかしトイレを作るのに必要な資材は、個人で一部負担してもらう決まりとなっている。供与することはしない。あくまで自主性を重んじ「自分の力で作ったトイレ」という価値を重視する。そのためトイレを供与する協力よりも定着には時間がかかる。トイレを多くの村人が受け入れ、自力で作ったところで、屋外排泄をしない宣言を村で行い、最後に村でお祝いの宴会を開く、というプログラムとなっている。重要問題はトイレ以前のところに屋外排泄など日本人にとっては論外の行為が、実は世界のsanitation分野ではまだまだ多くみられる。MDGsの最終年に、あろうことかWHO/UNICEFは「屋外排泄」に焦点を当てた報告書を出した1)。筆者は公衆衛生も専門としているがこれには唖然とした。これが本当のヤケクソ、でなくて他になんと理解すればいいのか。恐らく世界で屋外排泄がこんなに高い率で行われていたことをMDGsの立案者たちは知らずにsanitation分野の目標数値の設定を行ったに違いない。WHO/UNICEFもなぜトイレの普及がかくも遅いのか、嘆き、そして驚いたからに他ならない。sanitation分野の重要問題はトイレ以前のところにあったのだ。MDGsがいかに先進国目線で作られていたかが良く分かったMDGsの結末であった。<参考文献>1)UNICEF and WHO, Progress on Sanitation and Drinking Water, 2015Update and MDG Assessment.http://www.wssinfo.org/fileadmin/user_upload/resources/JMP-Updatereport-2015_English.pdf(最終閲覧日、2016年1月27日)2)Cambodia Tonle Sap Rural Water Supply and Sanitation Sector Project, AnADB-funded Latrine-Building Project in Cambodia.http://www.unep.org/ietc/Portals/136/Other%20documents/Other%20projects/Ecological%20sanitation%20-%20Philippines/Case%20studies%20from%20Cambodia/03%20KH_ADB_Cambodia_Latrine_Building_Project_Case_Study.pdf(最終閲覧日、2016年1月27日)3)東ティモール医療友の会http://afmet.com/activity/clts.html(最終閲覧日、2016年1月28日)4)王子ネピア、「千のトイレプロジェクト」https://1000toilets.com/(最終閲覧日、2016年1月28日)5)崎坂香屋子、花田恭、小村浩二編『国際協力トイレ修行学』文芸社、2015<図・写真提供>図1 UNICEF and WHO, Progress on Sanitation and Drinking Water, 2015Update and MDG Assessment. http://www.wssinfo.org/fileadmin/user_upload/resources/JMP-Update-report-2015_English.pdfP.5より筆者作成図2 WHO/UNICEF Joint Monitoring Program, Progress on Drinking Water andSanitation,2015Update.P.13より著者作成図3 Proportion of population by sanitation practices and wealth quintile,Southern Asia, 1995 and 2008 (Percentage)図4UNICEF「世界子供白書2015」より筆者作成図5 Centre for Affordable Water and Sanitation Technology(カナダ)http://www.acgc.ca/09/images/file/developmentinabox/G4-CAWSTsanLadder.pdf図6 USAID/India Urban Health Training Module IV, Water, Sanitation andHygiene Promotion for Urban Health, http://hupindia.org/files/589761378458976Module_IV_WASH_for_urban_health.pdf、P17より筆者作成図7むらかみゆみこ「国際協力トイレ修行学」文芸社、2015Civil Engineering Consultant VOL.271 April 2016027