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方の両親や親族に夏服と冬服を買う金も用意しなくてはならない。オシュの結婚式は2日間にわたって行われる。1日目は家で行い、近所の人や老人の祝福を受ける。2日目は市内の大きな有名レストランで友人を招いて行い、踊ったり、高価なウェディングドレスを見せびらかして称賛を受けたりしながら楽しい時間を過ごす。こう聞くとオシュで結婚するには莫大なお金が必要だと感じられるだろうが、互いに親戚が大勢おり、祝い金をくれるという幸運な風習がある。実際、キルギスでは新婚夫婦に物を贈る人は少ないため、祝い金の風習によってこのような結婚式が成り立つと言っていい。祝い金だけで結婚式の支出をまかなえることもある。誘拐婚貯金が足りないが今すぐ結婚したい、そんな人たちのために、先祖が考え出した風習が「誘拐婚」だ。「誘拐」という言葉は穏やかでないとショックを受ける人もいるかもしれないが、それには及ばない。誘拐婚とは、愛し合っているものの、お金のない二人が、一緒に暮らして子供をもうけたいと思う場合に限って行うものだ。現在では誘拐婚は違法だが、誘拐婚を行ったことで男性が逮捕されるケースはごくまれだ。その理由は、現在の誘拐婚のほとんどが男女両方の合意のもとで行われるからである。誘拐婚をした男女の80%は結婚式を行い、1~3年あるいは10年たてば、幸せだと思うようになる。誘拐婚は二つの愛し合う心が結びつく唯一の方法であり、愛し合う二人にとって豪華な結婚式は必要ない。それに人々は、一度誘拐された女性は、実家に戻っても、その後幸せになることはないと信じ写真9粘土の釜で焼くナンている。このため、若い男と女が恋に落ち、親が結婚に同意しない場合、二人がこの伝統に従って一緒になれば、親は結婚に同意せざるを得ないのだ。よくできた仕組みではないだろうか。ロマンチックな雰囲気を壊さないためにも、誘拐婚の暗い部分にはここでは触れないでおこう……。オシュの食生活キルギス人は遊牧民で、動物の肉以外には食糧がなかったため、今でも羊、牛、馬の肉は人々の大好物だ。馬肉は高価で、特別な日以外はめったに食べない。幸か不幸か、馬肉を食べられる余裕のある人は少ない。何より馬はキルギス人にとって、大事な移動の足なのだ。肉以外では、粉をこねたものが好んで食べられる。興味深いのは、動物性脂肪を非常に多く摂っているのに、肥満に悩む人はいないことだ。おそらくオーガニックな食べ物のみを摂っており、加工食品はほとんど口にしないからだろうと私は考えている。オシュの食の基本はナンだ。ここのナンは丸形で、オーブンなどではなく、粘土の釜で焼く。キルギスには、「オシュの人々はあらゆるおかずとナンを食べる。ナンをおかずにナンを食べる」というジョークがあるほどだ。飲み物は紅茶か緑茶がよく飲まれる。つまり、オシュの人々の普段の食事は、お茶、ナン、黄色のバタ写真10焼きあがったナンー(サル・マイと呼ばれるキルギスの伝統的なバター)、そして多くの野菜だ。オシュは肉と動物性脂肪を多く摂取するキルギスタンのなかでも唯一、野菜を多く食べる地域とされる。その理由として、オシュには80もの国から人々が集まるため、そうした地域の人たちが野菜を食べる習慣を持ち込んだと考えられる。オシュの人々は野菜不足だとでも思ったのかもしれない。こうしたこと以外にも、オシュの町には古代の習慣が残っている。それが山のほど近くにあるバザールだ。好みに合わせて、欲しいものを何でも見つけることができる。バザールに行けば、古代の商人の気分を味わえ、往時の交易や商いの雰囲気を肌で感じることができるだろう。オシュを訪れることがあったら話はまだまだ続くが、オシュの町の物語は膨大で、ここに書いたことはその1/5程度に過ぎない。それもそのはず……考えてもみてほしい。3,000年もの歴史を持つ町にはどれほど多くの文化や伝統が伝わっているのかと。オシュを訪れることがあったら、そこでは美しい伝統衣装を身にまとった人だけでなく、その人なつっこさ、親切さ、そして古代から伝わる文化と伝統にも、出会うことができるはずだ。Civil Engineering Consultant VOL.271 April 2016049