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く「日本一高い雪捨場」と揶揄されるように、更地の状態が続いていた。その土地を補助金に頼らず、公民連携の手法による開発を実施したのがオガールプロジェクトである。「オガール」とは、紫波の言葉で「成長する」という意味の「おがる」や、フランス語で駅を意味する「Gare(ガール)」を組み合わせた造語だ。2007年から本格的な計画がスタートし、雪捨場だった町有地には、芝生の広場を中心に図書館やカフェ、産直マルシェ、ビジネスホテル、バレーボール専用体育館などが入居する施設4棟が整備された。町にとっては初の図書館であり、オガールプロジェクトの「肝」ともいえる「紫波町図書館」は2012年にオープンし、独自の農業支援を実施している。フルーツやもち米の生産地として知られる紫波町は農業が基幹産業だ。そのため、図書館では農業に関する書籍をそろえるほか、農業専門データベース「ルーラル電子図書館」も利用できる。農業にまつわるトークイベントなどを企画し、農業の関係機関や役場の関係部署の協力を得ながら、農家の人たちにも利用を促している。住民や農家の新たなコミュニティの場となりつつある紫波町図書館は、オガールプロジェクトと一体となったまちづくりの活動などが評価され、2016年にはこれからの日本の図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を行っている機関に贈られる「Library of the Year優秀賞」を受賞した。オガールエリアは現在、年間90万人が訪れるほどに成長している。2017年春には、4棟目となる最後の大型施設「オガールセンター」が正式にオープンし、期待がさらに高まっている。教育委員会から首長部局に移管される図書館これまで挙げてきた例以外にも、まちづくりの中核や地域のコミュニティの場になっている図書館は全国に多い。特に近年は、図書館を従来の教育委員会から首長部局へ移管させ、地域振興やまちづくりの計画の中核を担わせる自治体が増えている。2014年9月30日発売の図書館専門誌『ライブラリー・リソース・ガイド』8号によると、首長部局に移管されている図書館は、2011年に文部科学省が調査した時点での106館から、2014年9月現在で168館にまで増加していた。なぜ図書館にそうした期待がされているのだろうか。図書館以外にも、美術館や博物館といった社会教育施設は地域に存在する。2006年の文部科学省「学習活写真6 紫波町図書館は同じ施設内にある産直マルシェの商品棚にポップを掲示して料理関係の本を紹介するなどユニークな活動をしている動やスポーツ、文化活動に係るニーズと社会教育施設等に関する調査」によると、直近半年で何らかの社会教育施設を利用した人が64.5%で、そのうち最も使われていたのは図書館(43.2%)だった。つまり、地域の人たちが最も気軽に訪れる公共施設が図書館であり、一定の集客力があることに着目して、まちづくりの推進力にしようとする自治体が多いのだ。また市民の間でも、少子高齢化や活性化に悩む地域のさまざまな課題を、行政だけでなくコミュニティのちからで解決しようとする時に、そうした「場」としての図書館が重視されている。ただし、同時にいくつかの懸念もある。首長部局に移管されることにより、図書館が政治的な影響を受ける可能性がゼロではないことに、私たちは留意しなければならない。また、図書館が地域の活性化計画に組み込まれ、万が一、それが破綻した時には影響は免れないだろう。それを踏まえた上で、新たな図書館の役割に今後、期待していきたい。Civil Engineering Consultant VOL.275 April 2017013