ブックタイトルConsultant277

ページ
18/60

このページは Consultant277 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant277

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant277

先を右に90度」といった具合だ。上り坂では、いつまで続くのか不安だろうから、「30mほど上ります」などと先に言えば親切だ。ランナーは基本的に緊張して走っている。だから、「道はしばらく平らで、周りに誰もいない」など安全な状況も伝えるとリラックスできる。「沈黙がいちばん怖い」とランナーは口をそろえる。基本を学んだら、あとは経験だ。まずは、「やってみよう」の気持ちとランナーを思いやる姿勢さえあれば誰でもできる。相手より走力があったほうが伴走にも余裕がでるが、伴走者を必要とするランナーは多く、走力もさまざま。自分を必要とするランナーはきっといる。私も最初は緊張でガチガチだったが、毎週末、練習会に通い、さまざまなランナーと走るうちに伴走技術も上がり、おしゃべりも楽しめるようになっていった。目からウロコの、気づきの数々とはいえ、私も始めの頃は、「お手伝いしなくちゃ」と気合が入りすぎ失敗もした。たとえば、練習後に一緒に食事に行って、割り箸をパチンと割って手渡したら、「見えなくても、割り箸くらい自分で割れるよ」と言われてしまった。たしかに、障害者は何もできない人ではない。ほとんどのことは自分ででき、少しだけある苦手なことを伴走者は手伝えばいいのだ。視覚障害者だからこその、「すごさ」にも驚かされた。たとえば、全盲ランナーと公園を走っていて、「近くに池でもある?」と聞かれたことがある。噴水のある池はあったものの、まだ少し先で、私には水音など全く聞こえない。でも、音が頼りの視覚障害者は私と話しながら、周囲にも耳を傾け情報を得ていたのだ。また、ある時は、前方に自動車を視認したが、完全に駐まっていたので、衝突しないようコースを少し調整しただけで車の存在は伝えずに通り過ぎようとした。すると、「今、左側に車でもあった?」と言われたので理由を聞くと、走っていて左からの風を感じていたのに急に風が止んだので、「何かある」と思ったという。微妙な空気の流れも感じる皮膚感覚の鋭さに舌を巻いた。風といえば、視覚障害ランナーの多くが「風を切る感覚」の魅力を語る。特に中途失明のランナーは、「二度と走れると思わなかった。伴走者のおかげで風を切る心地よさをまた感じられた」と喜ばれることも多い。生まれつき全盲の女性と組んだときは、走ったことも、走る動作を見たこともない彼女に、走るフォームを教えるところから伴走した。人間は走るときは両手足を交互に振るのが自然だが、彼女には最初、その動きができ写真6 2017年4月24日開催のロンドンマラソンで、視覚障害者の部男子優勝を飾った、日本の和田伸也選手(左)と中田崇志ガイドなかった。幼い頃から右手は白杖(はくじょう)と呼ばれる白い杖を握るためにあり、自分の前方で周囲の様子を探るため小刻みに動かすことが彼女にとっての「自然な動き」だったからだ。まずは杖を手離し、両手を振って歩くことから始めた。ぎこちない動きが少しずつスムーズになると、彼女は笑顔になった。「両手を振って歩くって、気持ちいいね。開放感!」伴走と出会うまでの私は、両腕を自由に振って歩き走ることは、誰でもできる、当たり前のことだと思っていた。でも、そうでない人たちがいる。そして、伴走者なら、その当たり前の時間を共有できる。そんなことに気づき、ランナーとのつながりが深まっていくうちに、私はどんどん伴走に夢中になった。ともに世界を目指す伴走者ランナーがパラリンピックを目指すような高いレベルになると、伴走者に求められることも当然増える。余裕をもって安全にガイドをこなすには、ランナーよりも速い持ちタイムが必要だ。ちなみに、2017年7月現在、伴走016Civil Engineering Consultant VOL.277 October 2017