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写真7 2017年4月24日開催のロンドンマラソンで、スタートの号砲を待つ、選手と伴走者をつなぐロープ者と走る視覚障害(T11/全盲)クラスのフルマラソン日本記録は2時間32分11秒で、イタリア選手がもつ世界記録は2時間31分59秒だ。また、ランナーは障害を負ってからランニングを始めるなど本格的な陸上競技経験がない人も少なくない。だから、伴走者にはコーチとしての役割も期待される。日々の練習のなかで、正しいフォームや練習方法、選手としての心構えなど最も身近な立場からアドバイスできるからだ。強化選手ともなれば、週末は合宿や試合が続く。パラリンピックなら、遠征期間は2~3週間と長い。伴走者もともに、家を空け、職場を離れなければならず、周囲の理解が欠かせない。また、遠征中は選手と同部屋で日常生活のサポートも期待される。伴走者にはさまざまな意味で、「人間力」が必要になる。こう聞くと、ハードルが高そうだが、伴走者たちはやりがいをもって取り組んでいる。世界を目指す選手の夢を、自分の夢として追いかけられる経験は限られた人にしかできない。また、伴走者として大会に帯同するのは選手1人につき1~2名だが、日々の練習はもっと大勢の伴走者が支えていることが多い。大会に出場する伴走者たちは、「多くの伴走者の代表と思って戦っている」と話す。パラリンピックなどでは一定の条件のもと、伴走者にも選手と同じメダルが授与される。伴走ランはチーム戦であり、伴走者も紛れもなく、「選手」なのだ。最も気軽で効果的に、パラスポーツを支える伴走活動をきっかけに、私は広くパラスポーツにも興味をもつようになった。東京2020大会の開催が決定して以降、パラスポーツを取り巻く環境は確実に向上しているが、現場にはまだ課題が多く、支えも必要だ。支える方法にはいろいろあり、伴走者や競技アシスタントのように選手と直接関わることのほか、スポンサーや寄付といった金銭的な支援もある。もう一つ、気軽にでき、しかも効果的なのは会場での観戦だ。アスリートにとって日頃の成果を観客に観られ、応援されることは励みとなり、力となる。声援に後押しされてタイムが上がることだってある。一方で、観られることはプレッシャーにもなる。大観衆の前で実力を発揮するには日頃から緊張感に慣れることも必要だ。だが残念ながら、日本国内のパラスポーツ大会のほとんどは観客が少なく、その大部分も選手の家族やスタッフなどだ。多くの一般観戦者の前で競技をする経験は、地元の期待を背負って戦う東京2020大会へのよい準備になるはずだ。会場での観戦はまた、観客にとってもパラスポーツを知り楽しむための特別な時間だ。たとえば、車いすバスケットボールでは選手の高い技術や車いす操作の巧みさに驚くだろう。想像以上に速く、急激なターンやストップをくり返し、時にはコートとタイヤの摩擦によってゴムの焦げる匂いさえ漂ってくる。また、車いすでのタックルがルールで認められているウィルチェアーラグビーでは、車いす同士がぶつかりあうたびに大きな衝撃音が響き、時にはお腹に振動さえ感じるほど激しい。その迫力はパラスポーツのイメージを一新させるだろう。また、パラスポーツでは選手の障害はさまざまなので、できるだけ条件を揃え、公平に競えるよう、障害の種類や程度などで選手を「クラス」に分け、クラス別に競う競技も多い。クラス分けはオリンピックにはない仕組みなので、慣れないと分かりにくいかもしれない。でも、会場で試合を観ることで選手の多様性を目の当たりにでき、クラス分けがなぜ必要なのか分かるはずだ。「失ったものを数えるな。残されたものを最大限にいかせ」は、「パラリンピックの父」と言われる、ルートヴィヒ・グットマン氏の言葉だが、まさに選手たちは個々の障害をものともせず、自身の身体機能を存分に使い、進化させている。競技用義足や車いすといった用具を使いこなして走ったり、自身の障害に応じ、さまざまに工夫したフォームで泳ぐ姿に、きっと心を動かされ、力をもらえるはずだ。伴走を知って、パラスポーツを知って、私の世界は広がった。東京2020大会を控える今こそ、さらに多くの人に、この豊かな世界とつながってほしいと思う。<写真提供>写真1?5星野恭子写真6、7Virgin Money London MarathonCivil Engineering Consultant VOL.277 October 2017017