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Consultant278
写真5三川が合流する足尾砂防堰堤上流部写真6左岸から望む越流堤写真7非越流堤に描かれたカモシカる足尾砂防堰堤のような非透過型タイプと、真ん中にスリットが入っている透過型タイプがある。透過型は土石流の際に大きな石を食い止め、小さい石を下流に流す。非透過型タイプの砂防堰堤は土砂が堆積した後も土砂が堆積して河床が緩やかになっているため、大雨や洪水で土砂が一気に流れてきた際に下流への土砂流出を軽減できる。三つの川の合流点で足尾砂防堰堤が大量の土砂を貯めたことで、この地区からの大きな土砂流出による被害は発生していない。■足尾の緑再生の取り組み1956(昭和31)年に足尾銅山で自溶炉製錬法が導入され、亜硫酸ガスの排出がなくなると、足尾の山では本格的な緑化活動が開始された。植生盤を用いた緑化工法が昭和30年代に確立され、1965(昭和40)年に入ると、山奥や急傾斜地にもヘリコプターを利用した緑化が行われるようになった。もともと公共事業として実施されてきた緑化事業であったが、公共事業に頼らず、自らの手で緑を取り戻そうとする運動が地元足尾地区の住民を中心に広がった。そして「足尾の山に百万本の木を植えよう」をスローガンに、1996(平成8)年5月「足尾に緑を育てる会」が設立され本格的な植樹活動が始まった。これは山肌に柵や壁を造り斜面の崩壊を止める山腹基礎工(基盤整備)を国土交通省が行い、ボランティアが植樹を行う官民連携の協働事業である。2002(平成14)年にはNPO法人となり、日本ユネスコ連盟のプロジェクト未来遺産に登録されるなど、活動は世界的にも高い評価を受けており、これまでに約17万本の植樹が行われている。■足尾の歴史の象徴あかがね現在、足尾砂防堰堤周辺には銅親水公園が整備されており、堰堤の壁面には地場産業である足尾焼の陶板2,000枚で描いたニホンカモシカの大きな壁画を見る写真8足尾砂防堰堤の全景ことができる。堰堤越流部近くでは心地よい水音と水しぶきを感じながら、春は花見、夏は木陰での憩いの一時を楽しむ人々で賑わっている。公園内の足尾環境学習センターでは、足尾銅山の公害や台風による災害と長年にわたって対峙してきた住民たちの想いと、国や県の治山治水事業の歴史を学ぶことができる。戦前からの長きにわたる苦難の末、ようやく巨大な砂防堰堤が完成した。しかし公害で傷ついた自然が回復するまでは、まだまだ時間を要する。足尾砂防堰堤はこれからも渡良瀬川の氾濫を抑えるとともに、足尾の歴史を知る戦後の遺産として後世に語り継がれていく。<参考資料>1)『渡良瀬川河川直轄砂防足尾・赤城五十年』1987年建設省関東地方建設局渡良瀬川工事事務所2)『緑の足尾をめざして』鶴巻和芳2015年随想社3)『足尾銅山における山林荒廃とその対策に関する歴史的変遷-松木地区の保存・復旧・活用に関する考察-』土木学会論文集DVol.662010年4)『1947カスリーン台風報告書』中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」平成22年1月5)『土木技術渡良瀬上流足尾砂防堰堤工事の概要』昭和27年2月理工図書<取材協力・資料提供>1)国土交通省関東地方整備局渡良瀬川河川事務所<図・写真提供>図1、2、写真1、2、3、4渡良瀬川河川事務所P26上髙橋真弓写真5、6山上英之写真7、8塚本敏行Civil Engineering Consultant VOL.278 January 2018029