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Consultant278
論説・提言第8回このコーナーでは「日本が目指すべき姿と社会のあり方、そこで必要とされるインフラと実現に向けた方策、そしてその際に果たすべき建設コンサルタントの役割とは」をテーマに、各専門分野の視点からの提言を掲載しています。社会経済のイノベーションを社会資本政策からイノベーションと社会資本イノベーションは前向きの印象を与える魅力的な言葉であり、使用に反対する人はほとんどいない魔法の言葉でもある。実際、政党や政策、企業のイメージ向上などの場面で多用される。日本語訳として「技術革新」が使われることが多く、そのこともあって、社会資本整備ではICT、メカトロニクスや生命科学などで開発された新技術をいかに活用するかという文脈で語られることが多い。このことも非常に重要であって否定する気は毛頭ないが、イノベーションをかなり狭くかつ受け身で語っている印象が強い。実は、いま日本が直面している多くの危機を打開するためには、社会資本政策の頑張りと貢献が必要であることを主張したいのであり、この観点からイノベーションと社会資本政策について考えてみたい。イノベーションを「技術革新」として翻訳したのは、1958年の経済白書である。当時から産業技術立国を目指す日本の政策を色濃く反映していると考えてよいだろう。科学技術立国が非常にうまくいき、その後の日本の経済成長に大きく貢献したことも、技術革新が広く使われるようになった背景にあろう。しかし、イノベーションの概念は単に技術領域にとどまることなく、その誕生から考えてもかなり広い。技術や社会経済システムの進化そして革新が経済発展をもたらすこと、すなわちイノベーションという言葉は使わなかったが、イノベーションを最初に主張し、社会経済への発展力を実証したのは、オーストリアの経済学者J.A.シュムペーターであり、彼の主著「経済発展の理論(1911)」である。シュムペーターの母国語はドイツ語であり、経済発展の理論もドイツ語で記述されていたので、英語であるイノベーションは使われなかっただけである。彼はまず生産をわれわれが利用しうるいろいろな物(原材料、生産施設)や力(労働力、生産技術)の結合であると定義づけたうえで、その新しい形が新結合であり、これが経済発展を導き、実現することを主張したのである。まさにより広い意味でのイノベーションである(ノート1)。興味ぶかいのは1951年大阪府出身。東京大学大学院工学系研究科修了後、東京工業大学土木工学科助手を経て筑波大学社会工学域にて研究教育に従事。この間、学長特別補佐・教育企画室長なども兼務し、2017年に定年退職。一般財団法人日本みち研究所理事長、一般社団法人建設コンサルタンツ協会理事、NPO法人日本風景街道コミュニティー代表理事、国土交通省社会資本整備審議会・国土審議会委員、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『道の駅教科書(編集委員長)』『みち創り・使い・暮らす』など。シュムペーターが示している新結合の5つの事例である。すなわち、1新しい財貨(生産物、サービス)の生産、2新しい生産方法、3新しい販路の開拓、4原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、5新しい組織の実現、である。1と2は企業内に関するもので社会資本はほとんど関与しないが、3、4、5は交通システムや道路システムの寄与が非常に大きく、社会資本整備のストック効果そのものである。社会資本政策と整備を担当する建設コンサルタントをはじめとする技術者の役割と貢献はわれわれ自身が考えているより遥かに大きい。日本の危機と社会資本政策語り手石田東生(ISHIDA Haruo)筑波大学名誉教授社会資本整備審議会道路分科会会長一般社団法人建設コンサルタンツ協会理事同インフラストラクチャー研究所顧問今、日本社会そして経済は、人口減少、超高齢少子社会の到来、世界から取り残される経済成長、災害の激甚化、地方の脆弱化と消滅など実に多くの危機に直面している。社会資本整備は国土計画・地域計画・都市計画・交通計画の重要な、かつ大きな要素である以上、国、地域、まち、社会、暮らし、経済の危機の打開に向けて大きな貢献ができると考えたい。これに関しても経済学者が大きなヒントを与えてくれている。2014年に亡くなられた宇沢弘文先生の「社会的共通資本」である。宇沢によれば、社会的共通資本とは「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置」であり、002Civil Engineering Consultant VOL.278 January 2018