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世界は見る者の数だけ多様性を持つ色の情報処理は網膜で始まる。網膜で光を受け止める細胞は2つのグループからなる。明るいところで働くかんたい錐体細胞と暗いところで働く桿体細胞である。色の知覚に関わるのは錐体細胞だ。ヒトの網膜には、長波長、中波長、短波長それぞれに感受性を持つL錐体、M錐体、S錐体の3種類の錐体細胞がある。網膜の細胞が反応できる波長範囲(可視領域)は動物種により異なる。例えば、昆虫や鳥の網膜には紫外線に感受性を持つ細胞がある。その結果、彼らが見る世界は私たちが見る世界とは異なっている。例えば、モンシロチョウのオスとメスは、私たちが見ると両者とも白く見える(図4上)。私たちの可視領域における羽の分光反射率がオスとメスの間で大差ないのである。しかし、紫外線領域の波長においては、メスの羽は光をよく反射し、オスの羽は吸収する。従って、紫外線を見ることのできるモンシロチョウにとっては、オスの羽(右)はメスの羽(左)よりずっと暗く見えている(図4下)。また、ある種の植物の花びらは私たちには無地に見えるが、紫外線領域を見ることができる動物にとっては模様が見える。動物によって、色や物体や世界の見え方は異なるのだ。さらに、網膜細胞の種類の違いだけでなく、目からの情報を脳がどう処理するかも、動物の種類によって異なる。ドレス錯視の例で明らかなように、同じ人間であっても、見える色は人により違うのである。の初期段階については、色情報の処理内容もよく理解されている。例えば、L錐体とM錐体の出力の間では引き算が行われる(図6)。さらに、L錐体とM錐体の出力の和から、S錐体の出力を引き算する過程がある。これらの計算結果は、視床において、赤と緑の対比、青と黄の対比を表現する信号となる。V1野から奥に進むと、赤や緑といった純色ではなく、シアンやピンクといった彩度の低い色だけに反応する細胞や、青とオレンジといった随分と異なる色に反応する細胞などが出てきて、多様な色の表現がなされている(図7)。残されたジ・ハード・プロブレムこのように、網膜で受けた光の情報を、脳が処理していく様子が解明されつつあるが、これらの色情報を伝えている神経細胞の活動は、本当に「色が見える」という心のできごとの原因となっているだろうか。目の奥では何が起きているか目で受けた光の情報が脳に向かう経路は4つある。そのうち、視床を介して大脳皮質に向かう経路だけが色の情報を伝える。大脳皮質での最初の到着点は一次視覚野(V1野)である。V1野から先は、頭のてっぺんにある頭頂葉へ向かう背側経路と耳の奥あたりにある側頭葉に向かう腹側経路の2つの経路に別れる(図5)。色に関する情報処理は腹側経路で行われる。腹側経路の中には、V1、V2、V4、ITなどの複数の領野があり、また、そのそれぞれの中にサブ領野がある。色の情報がそのどこを通って処理されているかは、ほぼ完全に明らかになっている。網膜からV1野に至るまで図5ヒトの大脳(左)とサルの大脳(右)における視覚経路図4モンシロチョウの目から見たモンシロチョウ010Civil Engineering Consultant VOL.279 April 2018