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図6網膜から大脳皮質に向けて進む色の情報処理近年、V4野に、診断目的で留置した電極(先端だけ電気を通す細い金属針)を使って微弱な電流を与え、その場所の神経細胞の活動を上昇させたところ、患者が「青い色が見える」と報告したという研究成果が発表された。電気刺激を与えたこの場所には、おそらく、青色に反応する細胞があり、その細胞が活動することで、青色が見えるという心のできごとを引き起こしたと解釈できる。この結果は、腹側経路の神経細胞の活動が、色が見えるという心のできごとの原因になっていることの強い証拠であり、色の知覚の脳メカニズムの理解への重要な一歩である。しかし、ここには科学上の大きな問題が横たわっている。図7で示すように、V4野の中には、赤に反応する細胞やオレンジ色に反応する細胞が存在する。それらを活動させると、おそらく今度は、赤い色が見えたり、オレンジ色が見えたりするのだろう。しかし、突き詰めて考えると、神経細胞の活動とは、ナトリウムイオンやカルシウムイオンが細胞の外から中へ短時間だけ流入して起きる電気パルスである。どの細胞も同じメカニズムで電気パルスを発生させているのに、どうして、ある細胞が活動した時には青が見え、別の細胞が活動した時にはオレンジが見えるのだろう。さらに言えば、どうして、聴覚野の細胞の活動は、色が見えることではなく音が聞こえることに結びつくのだろうか。神経細胞における物理化学現象がどうやって、色が見えたり、音が聞こえたり、幸せな気分になったりという心のできごとに結びつくのか。今日の科学では、この問いに筋の通った説明をすることができない。物質の塊であるはずの脳から、どうやって心が生まれ、私たちの精神世界が形成されるのか。この問題は、哲学の世界でthe hard problemと呼ばれる。難しい問題(hardproblem)に定冠詞のtheをつけ、おまけにそれをイタリック体で表示し、ザではなくジと読ませる。最も難しい科学上の問題というわけだ。<図出典>図2藤田一郎(2007)「『見る』とはどういうことか?脳と心の関係を探る」(化学同人)図3(左)Katlin McNeill氏のブログより(右)ぶどう茶@budoucha2015年制https://twitter.com/budoucha/status/571276627843223553図4Obara Y & Hidaka T(1968)Proc. Jpn.Acad.44:829-832.図5藤田一郎、池添貢司、稲垣未来男(2012)Clin.Neurosci.30:883-886図6稲垣未来男、藤田一郎(2016)BRAIN and NERVE 68:1363-1370.図7Kotake Y, Morimoto H, Okazaki Y, Fujita I, Tamura H(2009)J. Neurophysiol., 102: 15-27より改変グラフで示すV4野の4つの細胞A-Dの16個の色(左上図の黒点で示す)に対する反応図7サルのV4野の神経細胞の色に対する反応Civil Engineering Consultant VOL.279 April 2018011