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特集3名いろ画の色使いと調和論北畠耀KITABATAKE Akira文化学園大学/名誉教授日本色彩学会/名誉会員自然美であれ造形美であれ、美がたち顕あらわれるとき、多くは色の効果が伴っている。そのため色彩美が成り立つ条理を巡っては、哲学者や宗教家をはじめ画家や文学者も加わって語り継がれてきた。色の調和に原理はあるのだろうか。名画を色彩調和論と重ねながら読み解いてみよう。ヴィーナスとハルモニア調和、すなわちハーモニーは「いくつかの異なる要素が全体としてほどよく整っている姿」と古くから解釈されている。ハーモニーの語源はギリシア神話の女神“ハルモニア”に由来する。彼女は愛と美の女神アフロディテ(ローマ神話ではヴィーナス)と戦いの神アレス(同じくマルス)の間に生まれた不倫の子であり、エロス(同じくキューピッド)が兄弟である。ハルモニアにはこのような異質を取りもつ調和の意味が象徴されている。ルネサンス色彩画家の一人であるボッティチェリ(1444/5~1510年イタリア)の大作『ヴィーナスの誕生』から見ていこう。海の泡から生まれたとされるヴィーナスが西風の神に吹かれ、大きな帆立貝で岸辺に運ばれる場面である。ヴィーナスの柔肌と全身たんびてきの描線が耽美的である。ヴィーナスは豊満であるが、なぜか重さが感じられない。迎える季節の女神もローブと共に舞い、祝福の花が宙に浮かぶ。よく見ると、影を描かないことで現実感を薄める秘策が隠されている。それでいて全体に安定感があるのは、単純な三角形で収めた構図にある。そして穏やかな色使いが統一感を醸し出している。色調は大きくは暖色系と寒色系に分かれるが、ヴィーナスの肌色をさりげなく対比色相の青~緑系で囲んで浮かび上がらせ、赤いローブとの対比で色の効果を盛り立てている。ついでに話をしておこう。このモデルは誰だろうか。中世以降は全裸女性がタブー視され、また絵画は多人数の工房で制作されたこともあって、実は、生身のモデルをボッティチェリは見ていない。古典を範とする原則に従って古代彫刻が参考にされていたのである。図1ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』1486年頃テンペラ172.5×278.5cmウフィツィ美術館(イタリア)016Civil Engineering Consultant VOL.279 April 2018