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論説・提言第9回このコーナーでは「日本が目指すべき姿と社会のあり方、そこで必要とされるインフラと実現に向けた方策、そしてその際に果たすべき建設コンサルタントの役割とは」をテーマに、各専門分野の視点からの提言を掲載しています。「みなとまち」の魅力と地方創生私共みなと総合研究財団(WAVE)と建設コンサルタンツ協会(JCCA)が合同で実施する「欧州インフラ事情調査」は、ヨーロッパにおけるインフラ先進事例を視察するとともに、訪問先の歴史や文化などにも触れ、見聞を広めることを目的に、2009年度から毎年実施され、既に9回を数える。この調査のそもそもの経緯は、2003年にWAVEの会長に就任された中村英夫先生(現東京都市大学名誉総長)が、「一般市民にとっては必ずしも身近な存在ではない港への理解を深めるため、本来『みなと』が持っている歴史や文化的側面にも光を当てたい」との想いから、翌年に日本港湾協会の御巫会長(故人)とともに「港と文化を語る集い」をスタートさせ、また2005年から始まった海外視察調査は、途中から上述したようにJCCAとの合同調査の形になって現在に至っている。本誌の読者諸兄の中にも本調査に参加した方が少なからずおられると思うが、筆者も3年前(2015年度)と昨年の二度に亘って参加し、調査を通じて多くのことを学ばせていただいた。以下にその一部を私見として述べてみたい。筆者が参加した調査は、いずれも大陸部ヨーロッパの北海からバルト海にかけての沿岸部及び内陸都市を対象としたものだったが、これら調査を通して強く印象に残っていることの一つは、港湾に限らず内陸部の運河や水路においても、水面を人に安らぎを与える貴重な空間資源として、常に人の存在を意識してその魅力を最大限に活かすための演出と、水際線と人の距離を縮めるための工夫が、言ってみれば何処ででも普通に行われていることだ。もう一つは、前文化庁長官の青柳正規東京大学名誉教授の言を借りれば「ヨーロッパは蓄積の文化であり、日本は循環の文化である」ことにも繋がるものだが、「木の文明圏」に属する日本と違って「石の文明圏」のヨーロッパでは、数多くの歴史的な建造物が現存しており、それらを後世に遺すことに強い「こだわり」を持っていると感じたことだ。中世に造られた建物が使い勝手の語り手鬼頭平三(KITO Heizo)一般社団法人建設コンサルタンツ協会理事一般財団法人みなと総合研究財団理事長1948年、愛知県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院修了。1973年に運輸省(現国土交通省)入省。港湾局計画課長、北陸地方整備局長、港湾局長、技術総括審議官等を歴任し、2 0 0 8年退官。公益社団法人日本港湾協会副会長。良し悪しは別にして、現在も市庁舎として利用されていたり、戦禍に遭ってもなお当時の姿のままに復元された建物も随所に見ることができる。そして、多くの観光客がこれら建物等を目当てに訪れる。地域の人々がこれら建造物の歴史的な価値を認識し、その保存に努めるという暗黙のルールが地域の中で明確に共有されており、そのことが結果的に地域振興にも大いに役立っていることは間違いない。このことを強く感じさせてくれたのはフランス北部のノルマンディー地方及びベルギーにまたがるフランドル地方の小さな「みなとまち」達だった。セーヌ川河口に位置するオンフルール港はその代表選手と言ってもよいだろう。この港は、近世以前はフランスを代表する商業港として大いに栄えたが、物流近代化の流れの中で近隣のアントワープ港との競争に敗れ、歴史の舞台から姿を消すことになった。そのため近代的な港湾としての開発が一切進められなかったことに加え、幸いにして第二次世界大戦の戦禍を免れたことから、今も当時のままの素晴らしい景観を残している(写真1)。この港が持っている歴史や文化の香りが訪れる人たちを惹きつけ、他の場所にはない魅力的な観光資源として地域振興にも一役買っている。そして、食事時ともなれば水際線近くまで拡げられたテラスが、観光客や住民でごった返すほどの賑わいを見せているのも新鮮な驚きだった。翻って、我が国港湾地帯におけるウォーターフロント(WF)開発を振り返ってみると、世界的な先駆と言われる米国ボルチモア港におけるインナーハーバーの再開002Civil Engineering Consultant VOL.279 April 2018