ブックタイトルConsultant284

ページ
10/58

このページは Consultant284 の電子ブックに掲載されている10ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant284

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant284

008 Civil Engineering Consultant VOL.284 July 2019があって、それに基づいて春秋で山と里を往来する信仰体系があるということではない。あくまでも、日本各地の祭りを分析すると、そんな傾向がみえるのではないかという話に過ぎないのだ。例えば、茨城県の筑波山では春に神輿が山から下り、秋に山へと上っていく祭りがある。祭りではないが九州の河童の伝説は、春は山から下りてきて河童となり、秋は山に上って山やま童わろになるというものだ。河童というのは、水神が零落した姿だともいわれるため、まさにこれも祖霊信仰の話に重なってくるのだ。遠くから来る神さまさて、山から里へ神を迎える祭りは、春秋のほかにもう一度機会がある。それは正月である。暮れの正月準備の際に「松迎え」と称して、里山に門松を採りに行く。現在は多くの場合お店で買ってくるのであろうが、本来は神さまのいる里山から松を採ってくることで、それが神さまの宿るアイテムになった。この神さまというのは、お正月にやってくる神さまということで、「歳とし神がみ」と呼ばれる。つまり祖霊神は、歳神さまの一面もあるのだといえよう。けれどもお正月にやってくるのは、祖霊信仰にもとづく歳神ばかりではない。普段は近くにいないけれど、正月だけにやってくる神さまもいるのだ。それが、昨年ユネスコの無形文化遺産にも選ばれた「来訪神」ということになる。来訪神という存在を定義するなら、年に一度やってきて幸せをもたらしてくれる神さまということになろう。代表的存在として、秋田県のナマハゲがいる。ご存知、大晦日に男鹿半島の家々を訪れ、子どもたちを恐怖に震え上がらせる、あの存在だ。いや、あれは鬼ではないのかと不思議に思う方もいるだろうが、鬼ではない。ナマハゲの語源は、ナマメとかナモミと呼ばれる火ぶくれをはぎ取るという、ナマメ剥ぎ、ナモミ剥ぎから来ている。東北から北陸にかけての日本海沿岸には、そのような名で呼ばれる類似の行事も伝えられているのだ。火ぶくれというのは、寒い寒いと仕事もせずに火にばかりあたっているとできるものなので、怠け者をこらしめに来るという話になっているが、もとを正せば、火ぶくれに代表されるような身についた穢れを取り去って、清々しく新年を迎えることができるようにしてくれるのが、ナマハゲ本来の目的であったのだ。ナマハゲに似た行事が、鹿児島県の西の沖に浮かぶ甑こしきじま島に伝わっている。これをトシドンというのだが、トシドンもナマハゲと同様に、大晦日の晩に子どもたちを叱りに来る。子どもたちにとって、それは怖い存在なのだが、しっかりと受け答えをすれば、最後に餅が貰える。この餅のことをトシモチというのだが、これは実はお年写真3  大晦日に家を訪れた「トシドン」(鹿児島県薩摩川内市)写真4  冬に夜を徹しておこなわれる「花祭」に登場する鬼もまた来訪神(愛知県東栄町)