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Civil Engineering Consultant VOL.284 July 2019 017も議論ができそうだ。祭芸能の性格三態祭を音で演出するのが、笛や太鼓、鉦などで奏される「祭音楽」である。「○○神楽」「○○舞」「○○踊」などと呼ばれる祭の芸能は、先学を参考にすると、その形態から、巫女神楽、採とり物もの神楽、神じん代だい神楽、湯ゆ 立たて神楽、獅子神楽などに分類される。ただし、同じ芸能であっても場面によって演じる目的が異なることがあり、この分類法にも限界がある。そこで、芸態ではなく、「神事・神賑行事」と同様、ヒトの意識の方向性に注目して、祭の芸能を以下の三つに大別したい。①奉納型・神事芸能ヒトの意識がカミに向けられる芸能・演目を「奉納型・神事芸能」と呼ぶ。これが狭義の「神楽」にあたる。②祈?型・神事芸能ヒトが神威を借りてカミの代理人(ヨリマシ)となり、ヒトに対して清きよはらい祓や悪魔祓などを行なう芸能・演目を「祈?型・神事芸能」と呼ぶ。巫女が参拝者に鈴を振る、獅子が頭を噛むといった場面が想像しやすい。③娯楽型・神賑芸能ヒトの意識が、氏子同士や見物人に向けられている芸能・演目を「娯楽型・神賑芸能」と呼ぶ。「奉納型・神事芸能」の演目が、時間と場所を変えて「娯楽型・神賑芸能」として演じられることも少なくない。ここでは、身体表現をともなう芸能について述べたが、山・鉾・屋台などの祭車の道中囃子は「娯楽型・神賑芸能」の音楽と言えよう。このように芸能を分類して祭を見ると、祭の音風景の解像度が一気に増す。学校教育と民俗芸能深刻な後継者不足の芸能もある。祭は誰のものか?祭は、そこに住まう過去・現在・未来の氏子のものと言える。ただ、日本の中から日本文化が急速に失われていく現在、その共有範囲を少し広げて、近郷近在の学校の授業に導入するということも悪くはないのではないか、と考えることがある。芸能にとっては先人たちが育んだ文化遺産の緊急避難措置となるし、子供たちにとっては和風ではない真の和と、地域文化に触れることができる絶好の機会となろう。風俗歌舞と未来の子供たち日本音楽のゆりかご的な役割も果たしてきた産うぶ土すな神がみの祭。明治期に流行した中国の明清楽や維新前後の軍楽の旋律が祭囃子として使われる例外もあるが、概して「祭は日本」であった。新元号・令和の典拠は、わが国最古の和歌集『万葉集』。今後、強い関心を以て日本文化、地域文化が見直される時代が来ることを予感させる。「祭は文化のタイムカプセル」。今ここに、次世代に伝えることができる、文字や映像ではない「生音の祭」があることを喜びたい。古く律令時代には、地域固有の芸能を風俗歌舞(くにぶりのうたまい)と呼んだ。祭の音は「くにぶりのおと」であり、その紡ぎ出される「音霊(おとだま)」からは地域のアイデンティティが溢れ出してくる。未来の子供たちにも、祭の中で得られる、この筆紙に尽くしがたい喜びを体感して欲しい。そして、そのような未来の実現に向けて、微力ながら貢献できればと思う次第である。<参考文献>1) 薗田稔『祭りの現象学』弘文堂 19902) 森田玲『日本の祭と神賑』創元社 20153) 森田玲『日本の音 篠笛』篠笛文化研究社 20174)『日本音楽大事典』平凡社1989図7  神事芸能(奉納型)。二月初卯石清水八幡宮神楽の図『諸国図会年中行事大成』写真1  神事芸能(祈?型)。巫女神楽<浪速神楽>(京都ゑびす神社)写真2  神賑芸能(娯楽型)。秩父夜祭の屋台芝居